八時間を八分で眠る青枕
夜警専用の寝具店〈まばたき屋〉は、鐘楼の影が入口へ重なる八分間だけ営業する。
門衛長ハークが来た晩、彼は立ったまま夢を見ていた。店主ヘクトが名を呼ぶと槍を構え、それから自分が店内にいると気づく。
「北門の封印が壊れた。修理まで、俺しか門を閉めておけない」
三日三晩、交代なし。部下を休ませた判断は正しかったが、その責任まで一人で背負い込んだ。あと一夜耐えれば職人が来る。しかし先ほど、味方の合言葉を聞き違え、危うく矢を放つところだった。眠れば門が開き、起き続ければ誰かを傷つける。
ヘクトは青い小枕を一つ、椅子の背へ結んだ。
「〈縮眠枕〉です。八時間の眠りを八分へ畳みます。ただし一夜に一度。眠っている間、身体は一歩も動きません」
「八分も門を離れられない」
「店は門の影の中です。今のあなたは、まだ持ち場を離れていません」
床を見ると、鐘楼から伸びた北門の影が、確かに椅子の脚まで届いている。
ハークは槍を膝へ置き、後頭部を枕へ預けた。目を閉じた瞬間、青い布に星が八つともる。一つ消えるごとに一時間分の呼吸が深くなった。
ヘクトは砂時計を返す。
一分。頬のこわばりがほどける。
四分。握り締めていた槍から指が離れる。
八分。最後の星が消えた。
ハークは目を開け、夜明け後のように大きく伸びをした。三日前から霞んでいた視界が澄み、通りの端に立つ門標の細い亀裂まで見える。
店主が不意に合言葉を告げる。彼は反射で槍を向けず、正しい返句を落ち着いて返した。
「もう、間違えない」
代金は金貨一枚。ハークは門衛長章を外しかけたが、ヘクトは首を振る。
「章では眠れません。現金だけです」
彼は笑い、非常用の金貨を置いた。さらに八日分を銀貨で前払いする。
「封印が直っても来る。部下に交代を命じる前に、まず俺が休むところを見せる」
青い枕を背負い、足取りを取り戻して北門へ帰った。鐘楼の影が店から離れ、ヘクトが閉店しようとした瞬間、時間外のはずのベルが、あと一人分だけ鳴った。