八秒だけ老いる少女
柊木萩は、失踪した同級生を二十年間、十五歳のまま語り続けてきた。
事件を追う動画で人気を得て、制服姿の写真をサムネイルに使い、毎年「帰ってきて」と配信した。本人の家族より詳しい解説者として番組にも出た。視聴者が減るたび新説を足し、ありもしない目撃談まで「検証中」として扱った。彼にとって彼女の時間は、十五歳で止まっているほど都合がよかった。
ある夜、彼のチャンネルへ新曲MVが投稿された。イントロでは、十五歳の少女が教室の窓辺に座っている。顔は失踪写真そのものだった。だが八秒ごとに髪が伸び、頬が痩せ、目尻へ年齢が刻まれていく。
少女は萩を見て口を動かした。
「もう一度見て」
萩は映像を止めず、変化する顔を凝視した。二十三歳、三十一歳、三十九歳。生成映像にしては、歯並びや古傷まで一貫している。Aメロの背景には、彼女が生きていれば経験したはずの日々が流れた。職場の名札、引っ越し箱、誰かと分けた誕生日ケーキ。
二度目の八秒で、少女は中年の女になった。
「もう一度見て」
萩は昔の写真と比較した。耳の形が一致する。画面の女は生きている。しかも、失踪当日に駅で撮られた映像の端には、自分の意思で制服を捨て、長距離バスへ乗る姿があった。家庭内の暴力から逃げるため、支援者の手で名前を変えていたのだ。
サビで、萩が作った過去の動画タイトルが教室の壁へ並ぶ。〈監禁説〉〈死亡説〉〈犯人は家族か〉。女の新しい生活は、それらが拡散されるたび危険にさらされた。萩は「捜している」つもりで、彼女を十五歳の被害者へ何度も閉じ込めていた。
最後の一音。画面の女は現在の年齢で立ち、制服の写真を裏返す。裏には、動画の削除要請と新しい人生を侵害しないでほしいという文面があった。
「もう一度見て」
同じ映像を再確認しろという指示ではなかった。消えた少女としてではなく、逃げ延びて年齢を重ねた一人の大人として、見方そのものを変えろという言葉だった。
萩は再生数の最も多い失踪解説から順に削除した。MVの女は老いるのをやめ、現在の顔のままカメラへ背を向けた。