冒険者酒場の三杯目

冒険者酒場《銅鹿》で、S級冒険者クローデンは三杯目の酒を壁へ投げた。

「毒が入っている!」

 赤い酒が看板娘バシュのエプロンを濡らす。

「治療代として店をよこせ。断れば、S級の私が『新人を殺す酒場』とギルド中へ触れ回る」

 彼は元気に樽を蹴り、椅子を一本折った。

 バシュは布巾ではなく、事故申告板を持ってきた。

「飲まれた杯と症状をお書きください」

「三杯目を一口で、手足が痺れた」

 クローデンは署名し、S級章を板へ押しつけた。

「その章を見れば、誰もお前を信じない」

「では、章に確認してもらいます」

 バシュが申告板を裏返すと、S級章が青く光った。

『三杯目、未摂取』

 上級冒険者章には、依頼中の毒殺を防ぐため摂取物を記録する機能がある。クローデンは酒を口へ入れず、壁へ投げていた。

「章の故障だ!」

『一杯目、摂取。二杯目、摂取。三杯目、未摂取』

 章はさらに、彼が乾杯時に発した誓約を再生した。

『北門の魔獣は俺が倒した。報酬は全部俺のものだ』

 続いて小声が流れる。

『実際に倒した新人三人は谷へ置いてきた。帰らなければ証言もない』

 クローデンの顔が歪んだ。S級章は討伐報告時、本人の宣誓を記録する。彼は酔って自慢し、酒場で章を何度も卓へ叩きつけていた。

「その三人は魔獣に食われた!」

 酒場の奥から、包帯を巻いた三人が立ち上がる。バシュの弟たちが谷で救助していた。新人たちはクローデンを責めるより先に、助けてくれた酒場の者たちへ頭を下げた。

「店ぐるみの罠だ!」

「毒の虚偽申告も、置き去りの自白も、あなたの章と署名です」

 バシュは濡れたエプロンを外し、新しいものへ替えた。

 クローデンは剣へ手を伸ばしたが、S級章が赤く変わり、武器帯の封印が閉じる。重大違反を検知した章は、監察官が来るまで装備をロックする。

 階段からギルド長が降り、申告板を受け取った。

 そして酒場中へ聞こえる声で告げた。

「クローデンのS級資格を剥奪し、報酬詐欺・仲間殺害未遂容疑による拘束命令を発する」