写真の弟、見合いの兄

 樋田澪礼がお見合いの個室へ入ると、写真より十歳ほど年上の男が立っていた。

「鶴喰家の方ですか」

「はい、央路です」

 澪礼は、見合い相手の兄が先に来たのだと思った。家族が送ってきた写真には、明るい笑顔の青年が写っていたからだ。

「弟さんはまだ?」

「弟?」

「今日は付き添いなんですね」

「まあ、家族は心配していました」

 央路は、自分が年上に見えすぎて冗談を言われたのだと思った。

「写真と違って驚きました?」

「正直に言えば、かなり」

「写真写りだけはいいと言われます」

「ご本人も自覚が」

 澪礼は気を利かせ、見合い相手について兄へ尋ねた。

「弟さんは、どんな方ですか」

「気が弱くて、休日は本ばかりです」

「ご自身には厳しいんですね」

「私のことでは」

「庇わなくても大丈夫です」

 会話は妙な方向へ進んだ。

「写真の方、少し完璧すぎて不安でした」

「中身は全然完璧じゃありません」

「兄としては、結婚を勧めますか」

「できれば、本人を見て決めてほしいです」

「あなたは誠実ですね」

「本人も、それなりに」

「また庇った」

 澪礼は笑った。央路もつられて笑う。写真の青年より、目の前の不器用な兄のほうが話しやすいと感じた。

「失礼ですが、あなたは独身ですか」

「はい」

「では弟さんとの話がだめなら、あなたを紹介してもらえます?」

 央路が湯呑みを落としかけた。

「その弟というのは、誰ですか」

「写真の方です」

「写真は私のはずですが」

 そこへ若い男が駆け込んできた。

「兄貴、ごめん! 母さんが見合い写真と俺の就活写真を取り違えたって!」

 写真の青年、央路の弟・透馬だった。

 三人は沈黙した。透馬が机の写真を見て言う。

「これ、確かに俺だ」

「見合い相手は兄なのね」と澪礼。

「最初からそうです」と央路。

 澪礼は写真を伏せた。

「では、さっきの話の続きから」

「弟を紹介する話ですか」

「あなたを紹介してもらう話です」

 透馬は気を利かせ、二人分の勘定を置いて先に帰った。

 見合い相手は、最初から目の前にいた。