凍結湖のロープ

氷が割れ、胸まで湖へ沈んだ私に、岸の男がロープを投げた。

「輪に腕を通せ!」

凍った指で輪をつかむ。男は全身で引き、私を氷の上へ滑らせた。岸へ着いても救急毛布は出さず、最初に私の口元へ指を当て、何を見たか話せる状態か確かめるように目を覗き込んだ。水から出た瞬間、涙があふれた。

男は体温も呼吸も確かめず、私が首から下げていた管理員証だけを念入りに見た。救助を呼ぶより先に、氷上へ残した私のカメラを拾って鞄へ入れる。

「小屋で温める。意識を保て」

男は私の携帯を上着から抜いた。濡れた電池は危険だと言い、バッテリーを外してポケットへ入れた。

ロープの輪は胸ではなく両手首へ移され、引くほど締まった。

「転ばないようにつないでおく」

私は疑う余裕もなく、彼の後を歩いた。

小屋へ続く雪には、男の足跡が往復分残っていた。私が落ちる前から、ここへ何度も荷物を運んでいたらしい。入口の錠前は外側に二つ、内側には一つもない。

湖畔の小屋には薪ストーブがあったが、煙突がなかった。赤く見えた火は、薄い布の後ろで電球が点滅しているだけだ。室内は少しも暖かくない。

男は濡れた服を脱ぐよう言い、代わりに毛布を掛けた。窓の外では、氷上に倒れたスノーモービルが見える。

私は湖の管理員だ。事故の直前、禁漁区で銃声を聞き、男たちが大きな袋を穴へ沈めるのを見た。近づいた私の足元へ何かが投げられ、氷が割れた。

「あなた、岸にいた人ですよね」

男は答えず、私の携帯から記録カードを抜いた。

小屋の外でサイレンが鳴った。窓の向こうに本物の救難隊が現れ、拡声器で私の名を呼ぶ。

私は叫ぼうとした。男がロープを引き、両手を背中へ締め上げる。

「氷からは助けた。あのまま沈まれると、捜索で袋まで見つかるからな」

床板が開き、暗い収納穴が現れた。男は私を押し込み、上から蓋を閉める。

最後に見えたのは、救難隊へ向かって彼が振る白い布だった。

『要救助者は見ませんでした』

その声が遠ざかる。

湖から引き上げたロープは命綱ではない。

水底の秘密と同じ場所へ、私を結び直すための縄だった。