制服を着た椅子

学校へ行けなくなった生徒は、毎朝制服だけを椅子へ掛けた。

母には「明日は行く」と言い、朝になると腹が痛くなる。

教室で無視され始めた理由も、本人には分からなかった。

ある夜、制服のボタンを全部留めて椅子へ着せると、自分と同じ姿の生徒が立ち上がった。

椅子へ着せた制服のもう一人は、その日の授業を代わり、本物は放課後まで教室へ入れない。

本物は私服で学校へ向かい、図書室の窓から教室を見た。

代役は堂々と席へ座り、無視する同級生へ自分から挨拶した。

返事をしない相手には、

「聞こえたでしょう」

とまっすぐ言った。

本物にはできない。

これで関係が直ると思った。

昼休み、以前よく話した同級生が代役へ近づいた。

「最近、私たちのこと避けてたよね」

「避けたのは、そっち」

「声をかけても返事しなかった」

「聞こえなかった」

本物は窓の外で息を止めた。

不安が強い日は、教室の音が遠くなり、本当に呼ばれた声へ気づかないことがあった。

同級生は無視されたと思い、話しかけなくなった。

誰かが悪意を始めたのではなく、互いに傷ついたまま理由を決めていた。

代役は、

「じゃあ今日から元どおり」

と簡単に言った。

同級生は首を振る。

「元どおりは無理。何をされたら返事できるか、本人に聞きたい」

「私が本人」

「違う。あなた、怖くなさそうだから」

放課後、本物は教室の前へ行った。

鐘が鳴り、代役が消える。

制服だけが椅子へ戻った。

同級生が待っていた。

本物はすぐ謝れず、

「名前を呼んだあと、机を一回叩いて」

と頼んだ。

音が重なっても気づきやすい合図だった。

翌日、教室へは入れなかった。

次の日は保健室まで。

一週間後、昼休みだけ自分の席へ座った。

同級生が名を呼び、机を一度叩く。

本物は顔を上げ、

「聞こえた」

と答えた。

関係は完全には戻らない。

ほかの生徒の視線が怖い日もある。

それでも、勇敢な代役が一日で解決するより、本人の体調に合わせた合図を一つ作る方が長く続いた。

制服はもう椅子へ着せない。

着られない日は畳んで置き、母へ、

「今日はここまで」

と伝える。

学校へ行く役を代わってもらうのではなく、自分が戻れる入口を皆で少し広くした。