勇者たちの取りこぼしを拾う
落穂拾いムザンは、勇者隊の戦闘が終わった後に呼ばれた。
地面へ落ちた薬草、折れた矢、使い残しの魔石。価値のある物は先に英雄が持ち去り、彼に許されるのは「誰も要らない残り」だけだった。報酬表に名前はなく、勇者は彼を戦場の乞食と呼んだ。
技能も、残り物専用だった。
【万野拾穂:収穫を終えた一つの畑に残り、持ち主が見捨てた実りを一つに集める】
魔王城の門前で、勇者たちは敗れた。
聖剣の一撃も、賢者の大魔法も、聖女の祈りも、黒い結界に吸われて消える。王は遠隔鏡から撤退を命じ、負傷者と平民兵を置き去りにした。
「使い切った魔力に価値はない。次の勇者を用意する」
その言葉で、戦場に残った全ての功績は持ち主から見捨てられた。
ムザンには見えていた。聖剣が残した金の火花。魔法が砕けた青い粉。祈りが届かず地面へ落ちた白い雫。兵士が最後まで守った小さな勇気。どれも結界に負けたのではなく、あと一歩届かず落ちているだけだった。
ここは戦いという収穫を終えた一つの畑だ。
ムザンは空の籠を置き、技能を使った。
平原の隅々から光が集まる。折れた刃、焦げた土、血の染み、捨てられた旗から、取りこぼされた力が一本の黄金の穂束へ束ねられた。
彼は穂束を黒い門へ立てかける。
聖剣だけでは足りなかった。魔法だけでも、祈りだけでも足りなかった。だが見捨てられた全てが一つになった穂は、結界が吸い切れない。
黄金の根が門を走り、黒い結界を内側から割った。
倒れていた勇者たちの前で、魔王城の扉が初めて開く。遠隔鏡の王は命令を変えようとしたが、誰ももう聞かなかった。
ムザンは籠に残った一粒を、最も傷の深い兵士へ渡した。
結界が割れると、穂束を形作っていた光は元の持ち主へ一粒ずつ戻った。倒れていた勇者も平民兵も同じ量だけ起き上がり、誰の一撃だけで門が開いたのではないと理解する。王の遠隔鏡は足元へ捨てられ、今度の進軍名簿には最後尾ではなく先頭にムザンの名が記された。
《職業が【落穂拾い】から【万功拾穂聖】へ書き換わりました》