勇者ではないという名札
「《仮分類士》とは、ずいぶん役所向きの能力だ」
聖庁の審問官メルキオルは、イツサの鑑定結果を読み上げた。
【技能:触れた対象一つを、一分間だけ任意の分類名で魔法に認識させる】
見た目も力も変わらない。人を『竜』と分類しても翼は生えず、石を『薬』としても飲めない。鑑定表示と自動扉を誤魔化す程度。聖戦には不要として、イツサは文書庫へ回された。
三日後、勇者ラウネが魔王城の門前で立ち尽くした。
門には《選別結界》があり、『勇者』『聖職者』『武器』に分類されるものを灰にする一方、城内所有物の《返却荷物》だけは通す。平民の斥候は通れるが、魔王の核を砕ける者も武器も入れない。解除を試みた大神官は、杖ごと右腕を失った。
「結界は本質を見抜く。偽装は効かん」
メルキオルが言う。
イツサは門前へ進み、勇者の肩に触れた。
前世で配送倉庫に勤めていた彼は、機械の判定が本質ではなく、貼られたコードだけを見ることを知っていた。聖なる結界も、対象を燃やす前に分類する。その一瞬だけは、役所仕事と同じだ。
「分類名を《返却荷物》に」
勇者の頭上に、小さな札が浮いた。
審問官は止めようとした。分類を変えても魂は勇者のまま。結界が本質を見抜けば、その場で灰になる。ラウネはそれでも聖剣を握り、イツサの目を見て頷いた。
ラウネが門へ足を入れる。結界は白く光ったが、彼女を焼かなかった。返却荷物は、城内へ戻す対象だからだ。
「剣はどうする」
イツサは聖剣にも触れた。
「《荷物の付属品》」
二人は門を抜けた。
一分後、城内で分類が元へ戻る。勇者の紋章が輝き、聖剣が魔王の核を一刀で断った。門の外まで、城が崩れる音が響く。
帰還したラウネを迎えたメルキオルは、イツサに長い視線を向けた。
「勇者を荷物扱いするとは、冒瀆にもほどがある」
「結界には好評でした」
勇者が吹き出す。審問官は笑わなかったが、文書庫配属の辞令を破った。
「本質を変えぬ能力を、無意味と判断した」
彼は聖庁の最高機密章をイツサへ渡す。
「だが世界は、本質より分類で人を殺すことがある。今日から選別結界対策官を命ずる」
最後に、低い声で付け足した。
「私を無能と分類したければ、今だけ許す」