十二時を燃やす蝋燭
鐘楼町では、真夜中になるたび住民の寿命が一時間ずつ失われた。
呪いが始まって十年。領主は「たった一時間」と税を取り続け、富裕層だけは町外れの別邸で夜を越す。逃げる金のない職人や子どもたちは、毎朝少しずつ老いていた。十歳の弟は同じ年の肖像より髪が白く、夜勤の職人は一晩で二日分疲れる。町の時計だけが、奪われた一時間を最初から存在しなかったように進んだ。
時計修理師ルイゼは、父の遺した確定SSR灯箱を一度だけ開く。
必要なのは時間を戻す時計ではない。呪いが食べる「真夜中」そのものを、今夜だけ捕まえて焼き切る火。
中には、短い白蝋燭が一本入っていた。
《時喰いの灯》
時刻を一つ名指しして火を点けると、その時刻に寄生する魔法だけを燃料にする。
ルイゼは町の中央広場へ机を出し、十一時五十分から蝋燭を立てた。領主の兵が片づけろと命じる。
「呪いは昔からある。騒げば民が不安になる」
「もう不安です。十年も」
住民たちが窓を開けた。パン職人も、靴屋も、眠れない子どもも広場へ集まる。誰も戦わない。ただ十二時を見届けるために立った。
鐘が一度鳴る直前、ルイゼは宣言する。
「燃やす時刻は、午前零時」
火を点けた。
白い炎が横へ伸び、鐘楼の影を飲み込む。地面の下から黒い鎖が何百本も現れ、各家の寝台へ繋がっていた。炎は鎖だけを伝い、領主館の地下へ集まる。
そこには、奪った寿命を宝石へ変える魔法陣があった。
領主は地下室へ逃げ込んだが、自分で刻んだ受取人名まで炎に照らされた。宝石が一斉に砕ける。失われた十年分の時間は戻らなかった。けれど今夜の一時間は誰からも奪われず、鐘は初めて普通の十二回を鳴らした。
兵たちは地下室を見て武器を下ろす。住民は領主館の門を閉じ、朝まで町の帳簿を押収した。
蝋燭は鐘の十二音目で燃え尽きる。
灰の中に、夜明け色の文字が残った。
《SSR〈時喰いの灯〉――十年継続呪術を単独焼却。午前零時の所有権を全住民へ返還しました》