午前十時の配信
百目鬼玲奈は、登録者百万人の「理想の恋人チャンネル」で笑顔を作るのが上手かった。
撮影開始三分前、共同出演者の石動智哉へ言った。
「今日の配信で別れを発表する。その後は私と剛志で続けるから、あなたは映らないで」
剛志はカメラマンで、玲奈の肩へ親しげに手を置いていた。
智哉は確認した。
「スポンサーには?」
「私の人気で取った案件だもの。問題ない。チャンネルも私が引き継ぐ」
午前十時。玲奈と剛志がライブ配信を始めた。
玲奈は涙を浮かべた。
「私たちは別々の道を歩くことになりました。でも、この場所は守ります」
画面右上の視聴者数が伸びる。玲奈が新しい相手として剛志を紹介しようとした瞬間、背景のスポンサー表示が一斉に消えた。
剛志がスタッフへ怒鳴る。
「ロゴを戻せ」
管理画面には、契約終了の通知が並んでいた。食品、化粧品、旅行会社。いずれも「出演者の無断変更」と「事前申告義務違反」を理由にしている。
玲奈が智哉を振り返った。
「あなた、何をしたの」
「契約書どおり、出演体制が変わると伝えただけ」
チャンネルを運営する会社は、智哉が独身時代に設立したものだった。玲奈は出演契約者であり、アカウントの所有者ではない。智哉は別れの証拠も浮気の写真も公開せず、スポンサーへ事実だけを通知していた。
玲奈は配信へ向き直る。
「スポンサーがなくても、視聴者は私についてきます」
その言葉の途中で、ライブ画面に警告が出た。
――契約上の出演時間を終了しました。
午前十時十五分までという玲奈の出演契約を、彼女自身の代理人が作っていた。延長には運営会社の承認が必要だった。
玲奈は配信停止ボタンを押させまいと端末を抱えた。
別のモニターで、智哉の新番組が始まる。派手な告発はない。空になった撮影室で、彼は視聴者へ一礼した。
「今日から、作る人が正しく名前を持てる番組にします」
これまで裏方だった編集者、字幕担当、音響担当が一人ずつ画面に入る。スポンサー各社のロゴも、そちらへ移っていた。
玲奈側の配信画面が暗転した。
表示されたのは、運営会社による契約終了の文字だった。