午前零時のログ
常盤維月の評価面談は、夜勤の監視室で午前零時に始まった。
セキュリティ運用センターへ入って一年。警告を上げる件数が多く、〈過敏〉という評価が付いている。壁一面の画面には緑の正常表示が並び、一つだけ橙色の警告が、消してよい仕事のように点滅していた。
「海外出張中の社員が現地から入っただけ。本人確認も取れたのに、アカウントを止めたね」
上司は、今夜のログを示した。接続元は社員が滞在する都市。端末名も正しい。隣の後輩は、本人利用として閉じるところだった。本人からも「自分です」と返事があり、通常なら三つの確認がそろっている。維月は、それでも発行時刻の欄だけ空白なのが気になった。
維月は、接続時刻ではなく認証情報の発行時刻を見た。現地で使われた更新用の鍵は、その八分前に東京の端末から作られている。飛行機でも移動できない距離だった。
社員へもう一度尋ねると、出張前に空港の無料充電器へ端末をつないだと分かった。認証情報だけが盗まれ、攻撃者は出張先に合わせた接続元を使っていた。遮断直前、機密資料の一覧を開こうとした記録も残っていた。橙色の警告は、遮断後ようやく緑へ変わった。隣で後輩が長く息を吐いた。
維月は全セッションを切り、同じ鍵を使う接続を遮断した。後輩には「最初の判断が甘かったんじゃない。見る場所が一つ足りなかった」と伝え、警告画面へ〈鍵の発行地〉を加える手順を作った。
上司は被害を防いだことを認め、上級担当への昇格を提示した。ただし条件欄には〈重大警告の単独常時呼出し〉とある。夜間も休日も、維月一人の電話が最初に鳴る契約だった。
「若いうちに経験を積めるよ」
維月は任命書を返さず、条件だけを書き直した。四人の輪番制、呼出し翌日の勤務短縮、判断記録の共同レビュー。誰か一人が眠らないことで守る体制にはしない。
上司が修正版へ承認印を押すと、維月は昇格を受けた。最初の仕事として、午前零時の呼出し表に四人分の名前を並べた。