受領画面の偽名

生田目環は、展示会場から開発会社へ試作端末を運ぶ自転車便を任された。封筒一つだが、一般発売前の機器で、受取人本人への手渡しが条件だった。

到着直前、端末にメッセージが入った。

〈会議が延びた。正面の喫茶店で助手の西村に渡して。集荷コードは四八二一〉

環が持つ依頼票の集荷コードは四八一二だった。数字を入れ替えただけで、急いでいれば見落とす。

正面には社員証を下げた男が待ち、受取人の名も会社名も知っていた。

「本人から聞いてる。ここへ受領サインするよ」

男は画面へ手を伸ばした。

環は封筒をバッグから出さなかった。登録番号へ電話すると、受取人は会議室にいて、メッセージを送っていない。会社のメールが一時的に乗っ取られ、展示会の配送予定まで読まれていたらしい。

男は「面倒なら再配達でいい」と離れようとした。環は追わず、服装と進んだ方向だけを警備員へ伝えた。荷物を守る仕事で、相手を捕まえようとすれば、背負った封筒ごと危険へ近づく。

正面入口は騒ぎになったため、環は受取人と相談し、社員通用口へ回った。そこで顔写真付きの身分証と正しいコードを確認する。受取人は震える指でサインした。

「数字が似ていたでしょう」

「似せたんだと思います。間違いに見えれば、断られても事件にされにくいから」

会社は全社員の認証を止め、警備員が映像を確認し始めた。環の仕事はそこで終わる。彼女は封筒の受領時刻を送信し、自転車の鍵を外した。

警備員が男を追おうとしたときも、環は封筒を持ったまま同行しなかった。依頼主へ現在地を共有し、受け渡し方法の変更を記録に残す。正しい受取人でも、決めた場所と確認手順を勝手に変えれば、その隙間を偽者が使う。安全な近道は、確認を一つ増やした道だけだった。

次の依頼が画面に現れた。近くの法律事務所から、裁判所へ原本を一通。締切まで四十分。環は新しい集荷コードを声に出さず記憶し、背後を一度確認してから、夕方の車列へ滑り出した。