召喚された魔王軍の送り状
王立倉庫の荷札係アゴーテは、文字を書くだけの下働きと呼ばれていた。
北棚、冷蔵庫、危険物庫。届いた木箱へ正しい札を付け、置き場を間違えた荷を戻す。剣士は荷札など読まず、倉庫長は誤配が出るたび彼女の給金を引いた。
技能は倉庫の中でしか使えないはずだった。
【誤配転送:荷札と到着先が一致しない荷一件を、記載された正規倉庫へ移す。荷の生死は問わない】
「生きた荷など奴隷くらいだ」
倉庫長は笑い、禁制の次元札を商人へ横流しした。
その札を買った宰相は、王位を奪うため王都広場へ魔王軍を召喚した。黒い門から角ある兵が一万、巨獣が百、最後に三つ首の魔将が現れる。勇者隊は遠征中で、城門の騎士は最初の咆哮だけで武器を落とした。
宰相は王を縛り、「今日からこの国は深淵の属領だ」と宣言する。
アゴーテには、魔族の胸や武器へ同じ紫の文字が見えた。
《発送元兼保管先・深淵第九軍装庫》
召喚陣は運搬用の倉庫門だった。王都広場は、荷札に書かれた到着先ではない。
「ここは王都広場です。荷札にある保管先とは一致しません。誤配です」
魔将が笑い、斧を振り上げる。アゴーテは広場の敷石へ一枚の訂正札を貼った。
一万の軍勢は、同じ送り状で届いた一件の荷だった。
技能が発動すると、魔将の斧が宙で止まる。兵も巨獣も紫の梱包光に包まれ、黒い門へ逆向きに滑り始めた。抵抗しても、正規倉庫への転送は止められない。
宰相だけは残ろうと王の柱へしがみついた。だが胸元から、悪魔へ魂を売った契約札が現れる。そこにも《深淵第九軍装庫・付属品》と書かれていた。
門が閉じた後、広場に残ったのは横流し台帳と、倉庫長が受け取った金貨袋だけだった。
王は縄を解かれると、アゴーテへ褒美の宝石箱を差し出した。彼女は受け取る前に広場へ残った横流し金貨袋へ証拠札を貼り、正規の棚へ送る。王は苦笑して褒賞の支給票へ署名した。倉庫の同僚たちは笑わず、新しい入庫台帳の管理者欄へ彼女の名を一番大きく記した。
《職業が【王立倉庫荷札係】から【次元配倉監】へ書き換わりました》