名前の違う不採用メール

知世が送った不採用メールには、別の応募者の名前が入っていた。

採用代行会社で、二十件の選考結果を一斉送信した午後。テンプレートの差し込みが一通だけ更新されず、《佐伯様》《森下様》と呼びかけていた。

十五分後、返信が届いた。

《最後まで名前すら覚えていただけなかったのですね》

知世は画面を閉じられなかった。

間違えた名前より、その一文のほうが深く残った。相手が費やした時間、緊張して臨んだ面接、それを最後に雑に扱ったのは自分だ。

訂正と謝罪のメールを作り、上司に確認してもらう。会社名義で送信したあと、知世は相手からの返信通知を待った。

失敗した日は、自宅でも仕事用メールを一分おきに更新する。怒りの続きを受け取ることが、償いだと思っている。眠れなくても、翌朝目が腫れても、誰にも見えない場所で罰を受ければ少しだけ釣り合う気がした。

十八時、返信は来ていない。

上司は「経緯は明日まとめよう」と言い、先に帰った。

知世は電車の中でも受信箱を開いた。新着は求人広告と社内連絡だけだった。返信がないことまで、自分への冷たい判決に思えてくる。

自宅の玄関で靴を脱ぎ、また更新ボタンへ触れた。

その指で、メールアプリの設定を開く。

仕事用アカウントの《通知》をオフにした。さらにアプリをホーム画面の一ページ目から外す。アカウント自体は消さない。相手からの返事も、明日の経緯書もなくならない。ただ、今夜の知世が一分ごとに傷を受け取りに行く道を、少し遠くした。

夕食を温めている途中、スマートフォンが静かなことに耐えられず、何度も手を伸ばした。

知世は代わりに電子レンジの残り秒数を見た。二十三、二十二、二十一。仕事の受信箱とは関係なく、時間が減っていく。

翌朝、返信が来ているかもしれない。厳しい言葉かもしれないし、何もないかもしれない。

知世はテーブルにスマートフォンを伏せた。冷める前にスープを飲む。今夜だけは、返事を待つことと、自分を見張り続けることを、同じにしなかった。食器を洗う間も、端末は一度も鳴らなかった。