味噌茄子を二つに
生みの母と初めて会った帰り、白河柚葉は新幹線の席で弁当を開いた。育ての母が持たせた味噌茄子丼だった。大きな茄子が一つ、ごはんの中央に横たわっている。
柚葉が養子だと知ったのは高校生のときだ。育ての母を恨んだことはない。それでも、自分に似た顔を見てみたかった。先月、生みの母から手紙が届き、今日こっそり会った。
待ち合わせの喫茶店で見た女性は、柚葉と同じ位置にほくろがあり、笑うと目尻がよく似ていた。会えてよかった。けれど、その感想を育ての母に言えば、二十六年分を不足だったと受け取られる気がした。会ったこと自体も、まだ言えない。
蓋を開けると、甘い味噌の香りがした。茄子は冷えて柔らかく、箸を入れると皮だけが少し抵抗した。母は昔から、茄子を大きく切る。小さくすると油を吸いすぎるという理由だった。
柚葉は中央へ箸を入れ、茄子を二つに分けた。片方を食べる。味噌が濃く、ごはんを多めにすくわないとしょっぱい。もう片方は、生みの母と同じほくろを思い出しながら食べた。二つにしたからといって、味は別々にならなかった。
母という呼び名は、一人分しかない席だと思っていた。どちらかを入れれば、どちらかを立たせなければならないと。けれど柚葉の中にある二つの知りたい気持ちは、同じ弁当箱に置けた。
最後のひと口を残し、育ての母とのメッセージを開く。「味、濃くなかった?」と来ていた。
柚葉は「お母さんの茄子、ちょうどよかった」と返した。これまで呼びかけでは照れて使わなかった言葉だった。
続けて「今日、もう一人の母に会った」と打ち、送信する前に、残したひと口を食べた。
送信後に何を言われるかはわからない。育ての母が傷つかないとも限らない。それでも、傷つけないための秘密が長くなるほど、二人の間には別の母しか入れない場所ができる。柚葉は、その空白を味噌の濃さだけで隠したくなかった。
口の中から味噌の味が消えるまで待って、それから送った。