四時間ぶんの道路
医療機器を明朝までに届ける緊急便が入った。
運送会社で最後の夜勤に就く岡部茜へ、営業所長は帰庫途中の大型車へ追加するよう指示した。退職届は二枚重ねた配車表の下にある。
茜が運行記録を開くと、その運転手はすでに九時間走っていた。目的地まで往復すれば、休息時間を四時間削ることになる。所長は「荷待ち時間を休憩扱いにすれば数字は合う」と言った。
無線の向こうで、運転手は「行けと言われれば行く」と答えた。その声の後ろで、方向指示器の音が一定に鳴っている。荷物は手術用の画像装置の部品で、遅れれば患者にも影響する。それでも、別の事故を起こして届けることは解決ではない。茜は彼が断れないことを、承諾とは数えなかった。配車表の数字が合っても、眠気は消えない。
「荷台を見ながら待っていた時間は、休息ではありません」
「明朝の手術に必要なんだ。遅らせられない」
茜は一台で運ぶ前提を外した。途中の中継営業所まで別の小型車で運び、そこから休息を終えた運転手へ引き継ぐ。積み替えに三十分かかるが、到着は指定時刻の十分前になる。
新人の倫太郎が、二枚の配車表を見比べた。
「こんな組み方、所長の許可なしで出していいんですか」
「許可は取る。でも、違反する案しか見せなければ、違反が決定になる。安全な案を先に作ろう」
茜は中継先へ荷姿と温度条件を送り、運転手二人へ休息時間を確認した。所長は不機嫌なまま承認した。
午前三時、機器は中継所で引き渡された。最初の運転手はその場でエンジンを切り、予定どおり休息へ入った。倫太郎には、荷待ちと休息を分けて表示する新しい配車表を渡した。
所長は運行記録へ、〈担当者判断により顧客要求へ遅延リスク〉と入力した。
茜は中継案の到着予定と二人分の休息記録を添付した。肩書や評価を守るために、時間を帳尻で消す仕事はしたくない。
退職届へ提出日を書き込み、受理箱へ入れる。自治体の路線バス会社から届いた採用通知では、勤務希望を〈早番中心〉に変更した。
四時間を道路から消す代わりに、自分の夜を取り戻す方を選んだ。