墓標に値札をつけない
セヴァン村では、死者にも毎年税がかかった。
墓石一基につき銀貨一枚。払えなくなれば石は撤去され、空いた場所として売られる。貧しい家の墓だけが年ごとに消え、共同墓地には名のない土盛りが増えていた。
石工マティスが村長に選ばれたのは、徴税人が彼の母の墓石へ撤去印を付けた翌日だった。
「墓標に家賃を取る制度は終わりにする」
彼は印を削り落とし、代わりの財源を示した。
相続財産が銀貨百枚を超えた時、その超過分の五十分の一を一度だけ納める。百枚以下は無税。家、道具、家族が暮らす畑は財産額から除く。税収は墓地の草刈りと石垣修理だけに使い、葬儀や墓石の大小には一切課さない。
「財産を持つ家だけ狙うのか」
富商が問う。
「百枚までは誰も取られません。千枚を相続しても、取るのは超過九百枚の五十分の一だけです」
「村長が価値を勝手に決める」
「評価人は石工、商人、農家から一人ずつ。三人の見積もりと根拠を公開します。異議があれば全村会でやり直す」
評価結果には七日の異議期間を置き、納得できないまま徴収を急がないとも決めた。
富商はしばらく計算し、うなずいた。
「毎年、墓を人質にされるより明快だ」
最初の税は、その富商自身の叔父の遺産から入った。マティスは一枚ごとに用途を書き、崩れた石垣の材料を買った。
人夫を募る前、墓を失った家々が草刈り鎌を持って集まった。富商も荷車で石を運んできた。
「命令はしていない」
「知っている」
彼は母の大きな墓を見てから、名のない土盛りへ目を向けた。
「大きい墓ほど守られる村は、商売人にも居心地が悪い」
石工たちは余り石を持ち寄り、名前だけ刻める小さな札を作った。無料だった。税で墓を豪華にするのではなく、誰の名も消えない最低限を支えると決めたからだ。
石垣が直った夕方、一人の少女が父の土盛りへ石札を立てた。徴税人は来ない。年払いの期限もない。
入口には、マティスが刻んだ新しい碑が置かれた。
『生きる家から余りを少し。眠る名からは何も取らない。』
少女が父の名を指でなぞると、村の鐘が一度だけ、静かに鳴った。