夜勤が作った十三個目
午前零時を過ぎると、工場の影は十三個目の製品を組み立てる。
人間は十二個でラインを止め、工具を床へ置いて退室する。影が作る一個には製造番号を振らず、日の出まで箱を開けてはいけない。不良でも廃棄せず、休憩室の棚へ一晩置く。
笹峰智久の工場では、カプセル玩具の小さな人形を作っていた。
昼勤が胴体を十二個、夜勤が頭を十二個。零時のベルで人間が離れると、影たちは持ち主から抜け、余った樹脂や外れた部品を集めて十三個目を作る。何ができるかは朝まで分からない。招き猫に魚の尾がついた物、腕が時計の針になった物。規格外だが、誰も捨てなかった。
以前は、高津原岬と二人で検品していた。岬は機械の癖をよく知り、異音がすると耳ではなく影を床へ伏せた。二年前、プレス機に手を挟まれ、右手の指を三本失った。会社を辞める日、本人は正門から帰ったが、影は工場に残った。規則上、退職者の影も夜勤へ参加できる。
智久は毎晩、岬の影と働いた。本人はいないのに、休憩時刻になると自販機の前へ行き、二本分の位置で立ち止まる。智久は連絡を取らなかった。事故の日、安全装置の確認を急がせたのは自分だった。謝罪の言葉は、影へ渡してよい物か分からなかった。
ある夜、智久の影が零時前に離れた。
まだ人間が作業中なのに、岬の影の隣へ歩いていく。二つは余った部品を選び、ライン下へ隠した。規則では、影の製品を日の出前に見てはいけない。智久は工具を置き、一人で退室した。
休憩室で朝を待つ間、退職願を書いた。事故後も同じラインに残ったのは責任感ではなく、離れれば自分だけ逃げる気がしたからだ。だが岬本人に会わず、影だけを相手にしていた二年も、別の逃げ方だった。
日の出のベルが鳴り、十三個目の箱を開けた。
中には二人の作業員を模した人形が入っていた。一人は両手をポケットへ入れ、もう一人は右手を三本の指で上げている。二人の間に、自販機の小さな缶が一本。底面には製造番号ではなく、岬が退職時に残した電話番号が刻まれていた。
智久は退職願を破り、番号を携帯へ入力した。発信する前に、岬の影が工場の出口へ歩きだした。智久の影も続いた。
二つの影は朝日の中で薄くなり、正門の外へ出た。
箱に残った人形を立てると、一体には影ができなかった。代わりに足の裏へ、黒いゴムでできた小さな人型が折り畳まれていた。引き出すと、電話の受話器の形に曲がった。