夜警の犬

夜の校舎へ忍び込んだ理由は、犬だった。

昼間、部室棟の下から小さな鳴き声がした。茶色い子犬が隠れていたが、先生へ知らせれば保健所へ連絡すると言われそうで怖かった。

私と友達は、夜にもう一度様子を見ることにした。

大人には言えない保護計画。

段ボール、毛布、水、家から持ち出したドッグフード。校門の隙間から運び込んだ。

子犬はまだいた。

尻尾を振るのに、近づくと逃げる。私たちは地面へ座り、目を合わせずに待った。

一時間後、ようやく餌を食べた。

「名前、つける?」

「見つかったら別れるから、つけない」

そう決めたのに、友達は「夜警」と呼び始めた。夜の学校を守る犬だから。

三日間、交代で通った。雨の夜は段ボールへビニールをかけ、雷が鳴ると二人で地面へしゃがんだ。

昼は部室棟の下、夜は段ボール。誰にも気づかれないはずだった。

四日目、子犬がいなくなった。

段ボールも毛布も片づけられていた。

私たちは泣きながら校内を探した。

用務員室の前を通ると、窓の向こうで尻尾が動いた。

夜警は、用務員さんの足元にいた。

逃げようとしたが、呼び止められた。

「毎晩、餌をやったのは君たちか」

叱られると思った。

用務員さんは子犬の首輪を見せた。毛に隠れていた古い札から、飼い主が見つかったという。隣町で一週間前から行方不明だった。

「秘密にしたせいで、帰るのが遅くなった」

その言葉は痛かった。

守ることと隠すことは同じではない。

翌日、飼い主が迎えに来た。私たちは物陰から見送るつもりだったが、用務員さんが呼んだ。

飼い主は何度も頭を下げた。

夜警は私たちの手を順番に舐めた。

「名前、夜警じゃなかったね」

友達が言った。

本当の名前は、明るい朝を意味するものだった。

それから私たちは、学校の外で迷い犬を見かけると、まず大人へ知らせるようになった。

夜の校舎へ忍び込んだことは秘密のまま。

でも、その秘密は私たちだけを特別にするためではなく、間違えた守り方を忘れないために共有している。