失敗作の杖が神話を選ぶ

「能力なしでは、枝一本にも選ばれん」

杖適性試験の担当ヴァルターは、朝比奈環を不良品の籠へ案内した。課題は並べられた杖のどれかと共鳴し、初級光を灯すこと。名門生には宝石杖が次々と反応したが、環が触れるとどれも沈黙した。

環は誰にも見えないよう、その籠を先に立て直した。

最後に渡されたのは、曲がった黒い枝だった。魔力回路がなく、職人が失敗作として捨てたものだという。

観覧席で笑いが起きたとき、学院の展示塔から警報が響いた。

神話時代の杖《夜明けの根》が封印を破り、空中へ浮かんだ。かつて魔王軍の空を一撃で夜明けに変えたと伝わる神器であり、展示塔そのものが巨大な封印箱として建てられている。その塔が根元から割れ、千年分の光が試験場へ流れ込んだ。歴代学院長でも持ち上げられなかった神器は、試験場へ飛来し、周囲の杖から魔力を奪い始める。宝石杖は次々に砕け、生徒たちは手を焼かれた。

ヴァルターが神器へ命令するが、雷で弾き飛ばされた。

環には杖を従わせる魔法がない。彼女の能力は、選ぶ権利を自分から手放すことだった。

《能力・選択委譲――対象一つへ、一度だけ、自分に関する選択権を渡す》

環は失敗作の枝を胸の前へ置いた。

「私を選ぶのは、あなたでいい」

黒い枝が震えた。

次の瞬間、《夜明けの根》が空中で停止する。神器は環へ飛びつくのではなく、失敗作の枝の前まで降り、その根元へ自らを接いだ。二本は一つになり、黒い枝から朝焼け色の葉が芽吹く。

学院中の杖が同時に光った。

出力測定環は神器の位階を読み取れず、金属の輪が花弁のように開いて崩れる。暴れていた神器は、環の手の中で静かに一度だけ脈打った。

環は光魔法を放たなかった。もう、灯す必要がなかったからだ。

ヴァルターは床に座り込む。杖匠王オスカーが観覧席から立ち、王家の杖を鞘ごと環の前へ置いた。

「枝一本にも選ばれぬ、と申した者がいました」

王は、芽吹いた失敗作へ深く頭を下げる。

「訂正しましょう。神話が、あなたの持つ枝に選ばれることを願ったのです」

不良品の籠だけが、聖遺物台より高く扱われた。