家賃袋の千円札
朱莉はお金の話を先延ばしにしない。妹の若菜は、お金の話をすると人が小さくなる気がして嫌だと言う。姉妹で住むと決めたとき、家賃は半分ずつ、封筒に入れて管理する約束をした。
月末、若菜の封筒だけが千円足りなかった。朱莉は言わないでおくこともできた。けれど、言わなければ次の月に二千円になる。彼女は机に封筒を並べた。
「足りない」
「来週返す」
「今月の家賃の話」
「分かってる」
「分かってるなら、先に言って」
若菜は唇を噛んだ。友人の結婚式の二次会で、予定より出費が増えたらしい。朱莉には理解できなかった。ないお金で祝うのは、相手にも自分にも失礼だと思う。
「姉ちゃんは、正しさで人を払うよね」
若菜が言った。
「払うのは家賃」
「そういうとこ」
空気が冷えた。朱莉は千円札を自分の財布から出しかけて、やめた。貸すのは簡単だ。でも、それでは若菜が余計に小さくなるのかもしれない。
しばらくして、若菜がクローゼットから未使用のワンピースを出した。タグがついたままの、淡い緑色。
「これ、売る」
「今から?」
「コンビニ発送なら今日中に出せる」
朱莉はフリマアプリの梱包方法を調べた。若菜は写真を撮る。値段の付け方でも揉めた。朱莉は高めに、若菜はすぐ売れる額にしたがった。結局、その中間にした。
二時間後、購入通知が来た。二人はワンピースを畳み、透明袋に入れ、封をした。コンビニまでの道で、朱莉は封筒を持ち、若菜は発送用の箱を持った。
帰宅して、若菜は売上予定額を家賃袋にメモした。千円札はまだ足りない。でも、袋は空白ではなくなった。朱莉は自分の封筒の上に、予備の千円を置かず、代わりにボールペンを置いた。若菜が自分で書き込めるように。
翌月の家賃日、若菜は封筒を先に出した。中身はぴったりではなく、五百円玉が二枚混じっていた。朱莉は数え方を直したくなったが、黙って自分の封筒を隣に置いた。二つの封筒を不動産屋へ持っていく道で、若菜が片方を持ち、朱莉がもう片方を持った。