届いてしまった手紙

〈二十年前の私へ〉

あなたが書いた謝罪の手紙は、郵便仕分けAIの故障で届かなかった。だから私と彼女は仲直りせず、別々の人生を歩いた。私は小さな出版社へ入り、穏やかに年を取った。彼女は介護支援AIの会社を起こし、時代の寵児になった。

私は、届かなかったことをずっと後悔していた。手紙には、彼女の怒りを理解したこと、もう一度友達になりたいこと、何でもすることが書いてあった。最後の一文だけが、今読むと怖い。

――あなたが望む私になります。

だから昨日、過去修正サービスで配送コードを直した。

目覚めると、私は彼女の会社の副社長だった。二人で創業し、二十年間、家族より長く働いた記録が残っていた。会社は、高齢者の会話を解析し、商品を買わせる感情誘導で利益を上げていた。孤独な人ほど高額契約へ導く仕様に、私の電子署名があった。

彼女は私を抱きしめた。

「手紙が届かなかったら、私は一人だった」

その言葉は嬉しいはずなのに、首輪のように重かった。彼女は昔から、謝罪を許しに変える代わりに、永遠の忠誠を求める人だった。届かなかった手紙は、私たちを不幸にしたのではなく、離れる機会をくれたのかもしれない。

時間監査AIは、今夜までなら配送を再び失敗させられると言う。そうすれば被害者の契約も、会社も、彼女との二十年も消える。けれど被害を知らなかったことにして、自分だけ元の静かな人生へ戻るのは、謝罪ではなく逃亡だ。

そこで私は、もう一通書く。今度は過去ではなく、現在へ。

〈監督局と利用者の皆様へ〉

私は不正な誘導設計を承認しました。内部記録をすべて添付します。彼女に命じられたからではありません。届いた手紙を運命だと思い、自分で考えることをやめたからです。

送信ボタンを押す前に、彼女が部屋へ入ってきた。

「また私を捨てるの?」

私は答えた。

「今度は、届くように別れを言うの」

〈二十年前の私へ〉

謝罪は、関係を元へ戻す魔法ではない。届いたあと、どんな人間になるかを選び続ける約束だ。

あなたの手紙は届いた。そして私は今、ようやく返事を書く。

――土門紫月