山羊鐘の配給日
標高の高いルーメ村では、吹雪になると谷底の倉へ下りられない。
だから各牧場がチーズを蓄えるはずだったが、大きな牧場ほど販売用に囲い込み、小さな家は春前に食べ尽くす。新しい代官コルネが提案したのは、山頂の礼拝堂を共同庫にすることだった。
「また領主が取り上げるのか」
牧場主たちの声に、コルネは秤を持ち出した。
山羊十頭につき、チーズ一輪を冬税として共同庫へ。十頭未満は半輪。山羊を持たない家は、薪運び一刻で半輪分の配給権を得る。配る量は一人週一切れ。乳を必要とする幼子の家には二切れ。代官所も山羊数どおり納める。
秤は礼拝堂の入口へ固定し、納入時も配給時も誰でも見られる。重さは鐘番と牧童が別々に記録する。共同庫の鍵も二人が一本ずつ持つ。
「幼子を優遇すれば、うちの取り分が減る」と独り者の牧場主が言った。
「あなたが病気になった週は、年齢に関係なく二切れです。優遇するのは名前ではなく、必要です」
最初の税の日、コルネは代官所の山羊十二頭分として、大きな一輪を運んだ。独り者の牧場主は黙って秤へ載せ、目盛りが足りないと見ると、自分で一片を足した。
その後は早かった。石工が礼拝堂の隙間を塞ぎ、子どもたちが棚札を書いた。牧童は雪崩のない道に杭を打ち、鐘番は配給日を知らせる短い鳴らし方を決めた。
納入の途中、裕福な牧場の一輪だけ秤の針が足りなかった。鐘番は主人の顔色をうかがったが、記録役の牧童が数字をそのまま読んだ。
牧場主は怒る代わりに、自分で薄い一片を足す。
「俺だけ軽ければ、次は皆が軽くする」
その言葉を聞き、列に並ぶ者たちは自分の包みを隠さず秤へ載せた。公平さは役人が監視するものから、村人が守る得へ変わった。
最初の吹雪の日、礼拝堂には全戸分の切れが残っていた。
コルネが鐘綱を引く。澄んだ音が白い谷を渡る。
それは祈りでも警報でもない。
誰でも自分の分を取りに来てよいという、村で初めての合図だった。雪の向こうから、各家の橇が同じ道を登り始めた。