帰る場所を燃やして

地下道の扉は、石壁のどこにも見えなかった。

背後では城塞が燃え、避難民の列へ煙が迫っている。案内役セラギは黒い松明を掲げた。

この松明へ「帰る場所」の記憶を一つ燃やすと、秘密の道が十歩ぶん現れる。燃やした記憶は、場所だけでなく、そこにいた人と自分の関係ごと消える。

セラギは台所の記憶を差し出した。

母が鍋をかき回していた光景が火へ吸われ、壁に十歩ぶんの階段が現れる。母という言葉は知っているのに、その女が誰だったか分からなくなった。

避難民が進む。

次に中庭を燃やした。井戸の冷たさ、妹と石を投げた午後、初めて剣を持った日が一緒に消え、道が十歩伸びる。

「もっと」と後ろで声がする。

城塞の崩れる音が近づく。

セラギは寝室を燃やし、兵舎を燃やし、鐘楼を燃やした。松明の炎には家族や仲間の顔が一瞬ずつ浮かび、黒い煤になった。道は伸び、百人が地下へ入る。

最後尾には少年ペトナがいた。脚を傷め、杖にすがっている。その後ろで炎が通路へ流れ込んだ。

出口まで、あと二十歩。

残っている帰る場所は一つだけだった。

城塞そのもの。

壁の色、門の音、雨の日の匂い。ここを自分の家だと思ったすべてを燃やせば、道は外まで開く。

「やって」とペトナが言った。「僕は覚えている。あとで教えるから」

セラギは松明へ城塞の名を告げた。

炎が白く膨らみ、胸から何か大きなものを引き抜く。石壁が裂け、朝の草原へ続く出口が現れた。避難民たちは走り抜ける。ペトナも最後に転がり出た。

直後、地下道は崩れ、燃える城塞と切り離された。

草原で皆が泣き、遠ざかる塔へ手を合わせた。

セラギだけは振り返らなかった。

「何が燃えているんだ?」

ペトナが彼の袖を掴む。

「僕たちの家だよ。あなたが守った最後の城塞だ」

その言葉に何の意味も感じない。松明の最後の火が、帰る者の印である名前まで舐めた。

「あなたの名はセラギ」

少年が何度教えても、音は胸へ留まらなかった。

夜が明けるころ、彼の髪はすべて灰色に変わっていた。額には、地図から消えた道のような白い線が走っている。

百人には帰る場所が残った。

道を作った一人だけが、どこから来たのかも、誰として帰ればよいのかも失っていた。