幽霊妻の尾行
亡くなって一年になる妻・蕗乃は、夫の炬口未散が毎週木曜、若い女の家へ通うことに気づいた。
幽霊にも嫉妬はある。壁を抜けられても、疑いまでは抜けない。
その夜、蕗乃は夫を尾行した。未散は花を買い、女の部屋へ入る。
「また来てくださったんですね」
「木曜だけが待ち遠しくて」
「奥様には言えませんものね」
「言えたら、どれほど楽か」
蕗乃は花瓶を揺らした。女が肩を震わせる。
「今、何か」
「風だろう」
「窓は閉まっています」
「蕗乃かもしれない」
夫が自分の名を呼び、蕗乃は怒るタイミングを失った。
女はテーブルに手を置いた。
「では始めましょう。今日は何を聞きたいですか」
「僕以外に、好きな男がいたか」
蕗乃は天井まで浮き上がった。
「あなた、それを新しい女に相談するの?」
女が目を閉じる。
「奥様、いらっしゃいますか」
蕗乃は女の背後へ回り込み、思い切り耳元で叫んだ。
「いるわよ!」
女の口が勝手に動いた。
『いるわよ!』
未散が椅子から立ち上がる。
「蕗乃?」
『毎週、若い女の家に花を持ってきて、何をしてるの』
「霊媒師の篝芽さんだ。君と話したくて」
『奥様には言えないって』
「死んだ君に予約方法を説明できないだろ」
『木曜が待ち遠しいって』
「君に会える日だから」
蕗乃は黙った。篝芽の口を借りているため、黙ると女の唇だけが気まずく結ばれた。
「それで、僕以外に好きな男はいた?」
『質問が小さい!』
「一年間、気になってた」
『いないわよ。あなたこそ浮気してると思った』
「相手は?」
『今、しゃべってる人』
篝芽が目を開け、額の汗を拭いた。
「誤解は解けましたか」
未散は花を蕗乃の遺影の前へ置いた。
「ああ。毎週通ってる相手は、やっぱり妻だった」
篝芽は椅子にもたれた。
「次回からは、嫉妬の確認ではなく近況報告にしてください。霊に大声を出されると頭痛がするんです」
未散が謝ると、蕗乃は花瓶を二度揺らした。自分にも謝れ、という合図だった。
『次から花は、私の好きだった色にして』