影のない十二時

十二時の空港には、人の影だけがなかった。

国際線ターミナルの宝飾店で、展示ケースから指輪が消えた。店員が気づいたのは十二時四分。吹き抜けの照明は昼のように明るく、飲食店では麺やサンドイッチが売られていた。

監視映像には、十二時直前、毛布にくるまった子どもを連れた旅行客が店の前で立ち止まる姿がある。窓ガラスは外景を映さず、ターミナル内の灯りだけを鏡のように返していた。店員は曇天の正午だったからだろうと証言した。

疑われた清掃員は、正午には別階の休憩室にいた。昼食の購入履歴もある。展示担当者は午後から出勤する契約で、まだ空港へ来ていないとされた。

ケースの留め具には、展示担当者が使う白い手袋の繊維が残っていた。彼女は前日の陳列作業で付いたものだと答えた。店員も「彼女は昼過ぎまで来ない」とかばい、警察は夜間清掃員の動線ばかり追った。

空調の切替記録には十二時ちょうどに「深夜節電」とあったが、担当者は設定名が古いだけだと説明した。空港では表示より人の動きのほうが昼らしく見えた。

刑事は旅行客を探したが、該当する家族の出国記録はなかった。映像を拡大すると、子どもが抱いているのは搭乗用の枕で、足元には深夜便のタグがついた荷物がある。飲食店のレシートにも「夜間割増」の印があった。

空港は二十四時間動いている。食事をする人がいても、店が明るくても、昼とは限らない。窓が鏡だったのは曇り空ではなく、外が真っ暗だったからだ。

店の時計は十二時間表示。十二時四分は正午ではなく午前零時四分。清掃員の昼食履歴は十二時間後の記録だった。

展示担当者は「午後から」と言ったが、入館証の契約欄には二十四時から翌朝までとある。零時前、彼女は裏通路から店へ入っていた。

刑事が映像を止めると、照明の真下に立つ人物の足元にも影はなかった。

影のない十二時は、太陽が真上にある時刻ではない。太陽の代わりをする灯りが、一晩中消えない場所の真夜中だった。