恋人の母から届いたいいね

波多野奏恵が恋人の母と会った翌日、ファンアカウントに見覚えのある名前から「いいね」が届いた。

恋人の母の実名だった。

奏恵はアイドルグループtwinkle roomを応援する「夜汽車のスプーン」として、遠征弁当や節約術を投稿している。前日の食事会では、推し色の布で作った箸袋をうっかり使った。アカウントの写真にも何度も登場する柄だ。

身バレしたのだ。

恋人には趣味を話しているが、その母には「休日は友人と出かけます」としか言わなかった。結婚を考える相手の家族に、毎月遠征する生活を浪費だと思われたくなかった。

数分後、母から個別メッセージが来た。

〈昨日の箸袋で気づきました。勝手にフォローしてごめんなさい。嫌なら外します〉

続いて、古い写真が届く。若い頃の母が、別の歌手の名前を縫った法被を着ている。

〈私は結婚してから全部捨てました。好きだったことまで、恥ずかしいものにしてしまった。あなたには同じことをしてほしくない〉

母は数年前から「夜汽車のスプーン」を読んでいた。節約額を誇るのではなく、使わない月も楽しみを切らさない工夫が好きだったという。前日の箸袋で作者に気づいたとき、息子へ教えようとは思わなかった。結婚の判断材料にするのではなく、まず本人へ、自分が知ってしまったことを返すべきだと思ったのだ。

奏恵は返事を打っては消した。最後に、遠征費は自分の範囲で管理していること、恋人とも話し合っていることを正直に書いた。

母からは、家計への質問ではなく、箸袋の作り方を尋ねる返事が来た。

次の週末、三人で布地店へ行った。恋人の母は、昔の推し色だった深い緑を選ぶ。奏恵は夜汽車の柄を手に取った。

完成した二つの箸袋を並べ、「夜汽車のスプーン」に写真を載せた。母の顔も名前も出さない。ただ、説明にこう書く。

〈好きだった時間は、捨てても過去から消えません。今日は一人分、縫い直しました〉

最初のいいねは、今度も恋人の母からだった。奏恵はそれを外してほしいと思わなかった。