戦わない使い魔

カイム・セトの使い魔は、小さな灰色の蛾だった。

翼竜も魔狼も持たない彼の測定板には【使い魔戦闘力:0】と出た。

竜使いのアルマ・デインは、蛾へ息を吹きかけた。

「敵の鼻先で燃えて終わりね」

カイムは蛾を掌へ戻した。名はネム。噛みつけず、火も吐けない。ただ、暗闇の温度を羽へ写し取る。

公開測定は、地下迷宮に隠された核を奪う競技だった。アルマの翼竜は壁を砕き、番人を蹴散らして進む。観覧水晶には派手な戦闘が映り、歓声が続いた。

ネムは誰にも見られず、天井近くを飛んだ。冷たい壁、温かい足跡、息をしていない番人。羽に浮かぶ模様を、カイムは指先で読む。

「その先は囮だ」

アルマは聞かなかった。翼竜が光る宝箱へ突進すると、床から鎖が伸び、巨体を絡め取った。番人たちは倒されても立ち上がる。核が別の場所にあるからだ。

カイムは剣を抜かず、細い通気孔へ腕を入れた。ネムが止まった場所だけ、石がわずかに温かい。板を外すと、手のひらほどの核が現れた。

彼が触れた瞬間、番人も鎖も静止した。

停止した番人の胸には、傷ひとつなかった。アルマの翼竜がいくら倒しても起き上がったのは、核から力を送り直されていたからだ。派手な戦闘は、勝利へ近づくどころか迷宮へ魔力を返していた。

観覧席の教師が、ネムの羽に浮かぶ模様を拡大する。そこには核だけでなく、班員の位置、崩れやすい天井、翼竜が通れない狭路まで映っていた。

「ただ飛んでいただけじゃないか」

アルマが言う。

カイムは灰色の羽をそっと撫でた。

「戦わないから、全部を見る余裕があった」

ネムは火を吐かない。だから敵に狙われず、味方の視界を煙で塞がず、帰路まで覚えていられる。弱点とされた性質が、斥候には最適だった。

翼竜は力を誇るように鳴いたが、出口の方向が分からずカイムを見た。ネムが先に飛ぶと、その巨体は素直に後を追った。

新式の契約盤は、倒した敵ではなく、勝利へ必要だった情報の出所をたどる。迷宮全体の温度図が灰色の羽へ重なった。

【索敵寄与:96%】

アルマの翼竜は鎖から解かれたあと、ネムを追わず、カイムの指示を待った。

【使役科・役職更新】

斥候長:カイム・セト

追跡補習生:アルマ・デイン