打ち上げ時刻
科学館のプラネタリウムで開かれた同窓会に、星崎瑚乃は白いスーツで現れた。
海老沢真紀は天井の星を見上げ、わざと懐かしそうに笑った。
「まだ宇宙人を探してるの? 昔、休み時間も星の話ばかりだったよね」
瑚乃は長い髪を耳へかけた。少女のころの丸い眼鏡はなく、凛とした目元とすらりとした姿に、近くの同級生が何度も振り返る。
「宇宙人は見つけてない。衛星なら飛ばしてる」
「理系の会社員? 私はテレビ局で科学番組も担当してるから、有名な研究者は知ってるけど」
真紀は自分の番組が今日の小型ロケット打ち上げを中継すると話した。大型スクリーンに発射場が映り、カウントダウンが始まる。
司会の館長が瑚乃を紹介した。
彼女は超小型衛星会社の創業者兼主任設計者だった。災害観測技術が各国政府に採用され、会社評価額は千億円。瑚乃の保有株だけでも、真紀が生涯で稼ぐと語った額をはるかに超えていた。海外誌が選ぶ若手経営者にも選ばれ、今打ち上げられる衛星群も彼女の会社が開発したものだった。
真紀は笑顔を保とうとした。
「でも、打ち上げるのはロケット会社でしょ?」
スクリーンの中継アナウンサーが答えるように告げた。
〈本日のミッション責任者、星崎瑚乃CEOです〉
発射台の責任者から、瑚乃の端末へ最終確認が届く。全員が見守る中、彼女は数値を確認し、承認ボタンを押した。
真紀の携帯へ、テレビ局の上司からメッセージが届く。特番で瑚乃への独占取材を取れという指示だった。
「瑚乃、昔から仲良かったって紹介していい?」
「私のノートを宇宙へ投げた話も含めるなら」
真紀は黙った。中学時代、屋上から落とされた観測ノートを、瑚乃は一晩かけて拾い集めた。そのページに描いた衛星が、今まさに発射台にある。
カウントがゼロになる。光が夜を押し上げ、ロケットが空へ昇る。
管制画面に〈軌道投入成功・全機正常〉が鮮やかな緑色に灯った瞬間、地上で笑われた少女の名前が、誰より高い場所に刻まれた。