投稿しない休日

日曜の午後八時十分、黒瀬霞は、休日の写真が一枚もないことに気づいた。

朝食も、外の景色も、買ったものもない。正午すぎに一度目を覚ましたが、カーテンを開けず、そのまま眠った。起きたときには夕方で、冷蔵庫の残り物を立ったまま食べた。

SNSには〈週末まとめ〉の投稿が流れていた。海辺、映画館、友人との乾杯、読み終えた本。写真が九枚並ぶたび、一日は記録できる形で使うものなのだと思わされた。

霞はテーブルへマグカップと文庫本を置いた。本はまだ二ページしか読んでいない。カップにはインスタントコーヒーを注ぎ、窓際へ移す。暗くなった窓へ室内が映り込み、うまく撮れなかった。

照明を変え、布巾でテーブルを拭く。写真の中だけなら、静かに読書をした休日を作れる。誰にも嘘を問われない程度の、小さな編集だった。

けれどシャッターを押す直前、ベッドの上の毛布が目に入った。身体の形にへこみ、端が床へ落ちている。霞はカップではなく、その毛布を撮った。

画面には、皺と影しか写っていない。投稿文を考える。〈休息の日〉なら前向きすぎる。〈何もしなかった〉では自分を責めているようだった。

結局、投稿はしなかった。写真だけを非公開のアルバムへ入れ、名前を〈寝ていた日〉にした。美化も反省もつけず、日付だけ残す。

タイムラインには、霞の日曜日は存在しないままだった。それでも、存在しなかったわけではない。毛布は温まり、腹は減り、夜になった。

非公開のアルバムには、ほかにも失敗した料理や、電車を待つ靴先の写真が入っていた。人に見せない画像ばかりなのに、消さずに残してある。霞は今日の毛布をその隣へ置いた。反応の数がつかなくても、自分があとで見返せるなら、一日は記録として足りていた。

通知欄には、ほかの人の休日への反応を促す赤い数字が残っていた。霞はそれも開かず、アルバムだけ閉じた。

霞は冷めたコーヒーを飲み、文庫本を元の棚へ戻した。見せられる形に整えない一日があってもいい。今日の休日は、投稿しないまま保存した。