折れた模型橋
建築科の卒業制作展まで二時間という朝、白石遠子の模型橋は中央から折れていた。
机の周りには木片が散り、支柱が踏みつぶされている。
「強度不足だったんじゃない?」
醍醐莉々花は、自分の模型を運びながら笑った。
「壊れる作品を展示したら学校の恥だよ。遠子は受付でもしてて」
莉々花の橋は、遠子の設計とよく似ていた。川が増水したとき、中央部だけを持ち上げて流木を逃がす構造。遠子が発表した翌週、作業台から図面が消え、莉々花は同じ仕組みを「ひらめいた」と言い始めた。
その橋は、幼い頃に洪水で通学路を失った経験から考えたものだった。莉々花は模型が完成へ近づくと、遠子の机を倉庫前へ移し、相談会の日時も伝えなかった。遠子は一人で河川資料を読み、支柱の幅を〇・五ミリずつ変えた。
遠子は壊れた模型を捨てなかった。折れた面を見て、荷重で割れたのではないと分かった。接着部ではなく、硬い靴で真上から押された跡がある。
彼女は予備材を切り、中央桁を一本だけ作り直した。装飾を戻す時間はない。骨組みのまま、展示台へ運ぶ。
審査では、莉々花が先に説明した。
「独自に考えた可動橋です。災害時の安全性を重視しました」
審査員が設計過程を尋ねると、莉々花は完成図だけを示した。計算書は「端末故障で消えた」という。
遠子の番になった。彼女は模型を荷重試験台へ置き、設計値の二倍まで重りを載せた。骨組みはわずかにしなり、戻った。
次に、学校のレーザー加工機の履歴が映る。遠子は三か月前から四十七回、部材の角度を変えて試作していた。莉々花の利用は、遠子の最終データを外部記憶へコピーした一回だけだった。
「共有機械なんだから、誰が使ってもいいでしょう」
莉々花が言う。
作業室の映像が再生された。昨夜、莉々花が遠子の模型へ靴を載せ、体重をかけている。壊れたあと、自分の展示布で木片を隠した。
審査員長は莉々花の模型へ貼られた番号札を剥がした。
「醍醐さんは盗用と作品破壊で失格。最優秀制作賞は、設計過程と強度を証明した白石遠子さんです」