捨てる皮の戴冠宴
「食材の捨てる部分を柔らかくするだけ? 無能は生ごみ係へ行け」
王宮厨房の試験で、アデルサは裏庭へ追いやられた。
【固有技能:《端材軟化》――料理で捨てられる部分一種を、味を変えず食べられる柔らかさにする】
毒は消せず、量も増えない。女王ヘルミナは遠征中で、料理長は「皮を食う王族はいない」と笑った。
戴冠宴の前日、食材を積んだ橋が落ちた。届いたのは厨房の残り物だけ。根菜の皮、青菜の茎、魚の骨、硬いパンの耳、果実の外皮。諸国の使節百人へ出す料理がない。延期すれば、新女王は最初の外交宴すら開けない弱国と見なされる。厨房の表側は空なのに、裏庭の捨て場だけは山のように豊かだった。捨て場は、仕入れ代を払ったのに一度も皿へ載らなかった食材の倉庫でもある。見方を変えれば、宴一回分の原価が眠っていた。
料理長が宴の延期を申し出る中、アデルサは捨て場の籠を並べた。
根菜の皮は《端材軟化》で薄くし、油で揚げて香草塩を振る。青菜の茎は細く裂き、酢と蜂蜜で和える。魚の骨は焼いてから長く煮て、白いスープへ。硬いパン耳は角切りにし、卵液を吸わせて焼く。果皮は砂糖で煮て、苦味のある菓子へ変えた。
前世の厨房で叩き込まれた、歩留まりと廃棄削減。彼女は一つの材料から、正規品と端材の二皿を設計した。皿数は不足どころか、予定より増えた。
翌日、使節たちは「王国の大地を余すところなく食べる宴」と説明され、皮の薄揚げを競って取った。骨のスープは澄み、果皮菓子は苦い茶に合う。誰も残り物とは思わない。
帰還したヘルミナは、最後の皿だけ説明を伏せて食べた。香ばしい菓子の材料がパン耳だと知ると、料理長を見た。
「昨日まで、これを捨てていたのか」
料理長は答えられない。
女王は裏庭の生ごみ札を外し、王冠の紋章を押した。
「皮しか料理できぬ無能と聞いた」
ヘルミナはアデルサへ戴冠宴の献立帳を渡す。
「違う。皆が食材と思わなかった部分まで、一国の財産として数えた料理人だ」