明朝便は待たない
明朝便のカットオフまで、二十二分だった。
精密部品倉庫の椎葉亘は、工場から緊急依頼を受けた。組立ラインで使う小さな軸受を八百個。届かなければ朝六時に生産が止まる。電話の向こうでは、保全員が機械を空回しさせず待っているという。
端末が示す棚から、同じ銀色の箱を四つ取る。一箱二百個。数量は合う。新人が封をしようとしたが、亘は箱を一つ振り、音の違いに気づいた。三箱は細かな雨のように鳴り、一箱だけ鈍い塊の音がする。
品番を見ると、末尾が「B」と「8」で違っていた。印字が擦れ、棚札も同じように見える。誤った一箱は外径が二ミリ大きく、組立機には入らない。数だけ合った誤品は、不足より発見が遅れる。
「正しいBは棚にありません」
在庫画面では残り一箱。だが現物がない。班長は「三箱だけ先に送れ」と言った。工場は八百個必要だ。六百個では一時間しか持たない。
亘はピッキング履歴を開いた。夕勤がBを一箱、品質確認へ回している。理由は外箱のへこみ。中身に問題がなければ使える可能性がある。
品質区画まで走ると、箱は未開封で置かれていた。へこみは角だけだ。亘は勝手に良品へ戻さず、夜間の品質担当を呼んだ。内袋の封、数量、傷を二人で確認する。軸受そのものは無傷だった。
残り十二分。通常なら新しい箱へ詰め替えるが、それでは間に合わない。亘はへこんだ外箱を補強箱へ丸ごと入れ、元の品番と検査済み票が隠れない位置に窓を作った。詰め替えで数量を狂わせず、輸送強度だけを戻した。
出荷口へ運ぶ途中、班長が近道の歩行通路を使おうとした。亘は遠回りの搬送路を選んだ。焦った台車が人と交差すれば、八百個どころか夜勤全体が止まる。
締切一分前、四箱は明朝便へ載った。運転手が扉を閉めると、工場から受領予定の連絡が来た。
新人が「音で分かるんですね」と言った。
亘は誤品の箱を棚へ戻さず、赤札を付けた。Bと8の棚を離す指示を書いている途中、別工場から緊急依頼が入った。
今度は末尾が「O」と「0」の部品だった。明朝便は待たず、似た文字だけが次々に夜へ残った。