月の欠け方を知る獣

塔の屋上で、銀の月が二つに増えた。

一つは空にあり、もう一つは祭壇の水盤に浮かんでいる。水の月が満ちれば、眠る街の人々は獣へ変わり、朝には互いを食い尽くす。

キルオは水盤の縁へ爪をかけた。少年ほどの身体に、蝙蝠の翼と獣の耳。彼だけが月光を噛み砕ける。

ただし月を一欠け食べるたび、自分の骨が一本、光になって消える。

最初に水面の端を噛んだ。

月が少し欠け、左手の小指から骨が消えた。肉だけになった指が力なく垂れる。

二口目で肋骨が一本なくなる。三口目で足首が崩れ、キルオは翼で身体を支えた。

祭壇へ縛られたオルナが、縄の中でもがいた。彼女の血が水盤へ落ちるたび、月は欠けた分を取り戻していく。

「私を置いて逃げて」

「お前が死ねば、月が完成する」

キルオは牙を立てた。

五口、六口。胸が柔らかく潰れ、背骨が短くなる。翼の付け根だけは骨を残した。飛べなくなれば、最後まで食べられない。

塔の階段から儀式師たちが上がってくる。キルオは片翼で風を起こし、燭台を倒した。火が縄へ移り、オルナが自由になる。

だが水盤の月はほぼ満ちていた。

街の下から、眠る人々の低い唸りが響く。時間がない。

キルオは水盤へ顔を沈め、月を一気に噛み始めた。

鎖骨が消える。顎の骨が消え、牙が肉の中へ沈む。それでも翼の先で月光を掬い、喉へ押し込んだ。

骨盤、頭蓋、最後の背骨。

水面から銀色が完全に消えた。

街の唸りも止まった。

オルナが水盤へ駆け寄る。そこにはキルオの身体がなかった。骨を失った黒い皮膜が一枚、水に浮いている。翼だったものだけが、風もないのに弱く震えた。

彼女が抱き上げると、皮膜は軽すぎて腕の間から滑りそうになった。

「キルオ」

名を呼ぶと、翼の端に小さな耳の形が浮かび、すぐ消えた。

夜明け、空の月も細い三日月になっていた。

救われた街の屋根を、骨のない黒い影が漂っていく。もう獣の身体にも少年の顔にも戻れず、それでも月光が窓へ差すたび、薄い翼を広げて人々の眠りを覆った。