未送信の招待状
【同窓会幹事・事後処理】
00:18 沢渡梨沙
無事終了。会計も合いました。二人とも本当にありがとう。
00:20 堂本俊
写真、明日共有する。
00:22 山科結衣
その前に、一つだけ確認したい。
結衣が貼ったのは、送信されなかった招待メールの下書きだった。宛先には、高校三年間ほとんど教室へ来なかった同級生のアドレスが入っている。
00:24 結衣
この人だけ、最初から送らなかったよね。
既読が二つ付いた。
梨沙は現在、高校教師をしている。俊は新聞記者、結衣はスクールカウンセラーだった。三人とも同窓会の挨拶で「誰一人取り残さないクラスだった」と笑った。
00:31 梨沙
来てもつらいと思った。本人のためでもあった。
00:33 俊
本当は、来られたら俺たちが困るからだろ。
文化祭の準備で、その同級生の机を物置にした。弁当を隠されたときも見て見ぬふりをした。大きないじめはなかった、というのが三人の共通した言い訳だった。
00:42 結衣
私は明日、個人で謝る。学校も辞める。春から夜間中学の相談員になる。
00:44 梨沙
辞めることと謝ることは別じゃない?
00:45 結衣
うん。だから両方する。
俊は来月、全国紙を辞め、故郷の小さな新聞社へ移る。過去を記事にはしないが、「なかったことにする側」から降りたいと書いた。
梨沙はしばらく返信しなかった。
01:03 梨沙
私は教師を続ける。逃げずに、今の生徒を見る。
でも、この招待を今さら送るのは、自分が楽になるためだと思う。
01:07 俊
それも正しい。
01:08 結衣
三人とも正しいまま、同じことをしたんだよ。
下書きの送信ボタンは、誰の画面にも青く光っていた。結衣は宛先を自分の連絡先へ移し、個人の言葉で書き直すと告げた。俊は幹事グループを退出した。梨沙だけが、元の招待状を削除できずに残した。
朝になり、同窓会の共有アルバムには笑顔が百枚並んだ。空いた一席は、会場写真の端で荷物置きになっている。
幹事グループの入力欄には〈メッセージを送信〉と表示されたまま、誰も次の再会を提案しなかった。