机を運ぶときだけ
席替えで、元親友と机を運ぶことになった。
彼女の新しい席が僕の古い席、僕の新しい席が彼女の古い席だったからだ。教室の対角線を、二つの机が入れ替わる。
半年前まで、僕らは何でも一緒だった。けれど、部活のレギュラーを決める投票で彼女が僕に入れなかったことを知り、話さなくなった。
「先にそっち動かして」
「通れないから、こっちが先」
必要な言葉だけ交わす。机の脚が椅子に引っかかり、床を鳴らした。周りはもう新しい席で騒いでいる。僕らだけが古い位置と新しい位置の間に取り残されていた。
机を持ち上げると、彼女の引き出しから折れた紙が落ちた。
拾うつもりはなかったが、表に僕の名前が見えた。
部活の投票用紙だった。
僕の名前の横に丸がついている。けれど消しゴムで消され、その下に別の名前が書かれていた。
「見た?」
彼女の声が硬くなった。
「入れなかったんだろ」
「入れたかった」
顧問から、実力だけで選ぶよう言われた。親友だから票を入れたと思われたくなかった。僕より調子のいい後輩を選んだ。正しいと思ったが、結果を聞いた僕が傷ついた顔をして、何も言えなくなったという。
「正しかったんじゃない」
僕は言った。
「でも、黙ってたのは違った」
彼女は用紙を握った。
僕も、投票のことを別の人から聞き、理由を尋ねず裏切りと決めた。元親友になったのは、一票のせいではなく、話さなかったせいだった。
「机、重い」
僕が言うと、彼女は反対側を持った。
「二人で運べば」
対角線の途中、何度も人をよけた。右、左、止まって、また進む。半年前までなら声を出さなくても動けた。今も、体は同じタイミングを覚えていた。
新しい位置へ机を置く。
彼女の席は窓際の後ろ。僕は廊下側の前。遠く離れた。
「次の部活、来る?」
彼女が聞いた。
「行く」
「一緒に準備する?」
「机より重いものなければ」
彼女は笑った。
席替えが終わり、僕らは別々の場所に座った。けれど放課後になると、教室の真ん中で待ち合わせた。
仲直りは、向かい合って謝る形ではなかった。
一つの机を両側から持ち、同じ場所へ運ぶことで始まった。