柘榴皮の封書
ザーレフ山城では、兵が柘榴の皮を煮て飲んでいた。
実も麦も、とっくにない。皮は秋から薬用に干してあった最後の蓄えで、湯へ入れるたび砦の赤色が少しずつ薄くなった。赤黒い湯は渋く、腹をいっそう空かせた。
書記官のパルヴィーズ・メフルは、その皮を一枚、敵の使者が持参した封書へ押し当てた。
封蝋には王家の獅子。爪の一本が欠けているところまで本物で、ダリヤーンの迷いを深くした。文面は、援軍が敗れたので降伏せよという勅命だった。
守将ダリヤーンは剣を置く。
「王の印に見える」
「印は本物です」
「ならば終わりだ」
「紙が違います」
パルヴィーズは柘榴皮を湯へ浸し、封書の余白を擦った。渋い滴が紙を走り、消された筆圧の溝へ溜まっていく。皮の渋みが、消された鉄の文字へ反応する。薄茶の線が浮かんだ。
元の文は兵糧輸送の命令書だった。
宛先は山城ではない。包囲軍の西谷倉庫。
敵は王の伝令を襲い、文を削り、封蝋だけを再利用したのだ。
「西谷に麦がある」
ダリヤーンが言う。
「今夜届いたばかりです。だから敵は、我々が明日まで持たぬと知りながら降伏を急いでいる」
「奪いに行く兵の腹がない」
「使者に道を空けさせます」
パルヴィーズは新しい返書を書いた。勅命に従い、夜半に西門を開く。降伏の立会人として敵将以下二十名を招く、と。
敵が門前へ幹部を集めれば、西谷の護衛は薄くなる。
使者は返書を受け取り、封蝋を確かめた。
「賢明な決断だ」
「腹が空けば、誰でも賢くなります」
パルヴィーズは笑わなかった。
夜半、敵の灯が西門へ集まった。甲冑を飾った将たちが、降伏式を待つ。
一方、裸足の城兵五十人が北の岩穴から下り、西谷へ向かう。武器は短刀だけ。走る力を残すため、柘榴湯さえ飲んでいない。
ダリヤーンが訊いた。
「返書が偽物だと悟られたら」
「その時は、勅命どおり降ります」
「王はそんな命令をしていない」
「腹を満たせなかった王に、城の死に方まで決める権利はありません」
西谷の闇に、小さな火が一つ灯った。倉庫を奪った合図だ。
パルヴィーズは封書を火鉢へ落とす。
北岩門を開く赤い旗が上がった。