柚子大根の皮
冬至が近づくと、菜穂子は柚子大根を作る。
大根を拍子木に切り、塩を振る。酢、砂糖、昆布、細く刻んだ柚子皮。
夫の一颯は、柚子の白い綿を丁寧に削ぐ役目だ。苦みが出るからと、毎年真剣になる。
「そこまで取らなくても」
「苦いのは嫌だ」
皮は薄くなり、灯りへ透かすと黄色い硝子のようだった。
漬けて半日。大根から水が出て、柚子の香りが冷蔵庫いっぱいに広がる。
二人で味見をすると、今年は少し酸っぱい。
「砂糖、足す?」
「明日まで待とう」
翌日には大根の甘さが出て、ちょうどよくなった。
一颯は小分けにして職場へ持っていく。同僚に好評で、作り方を訊かれた。
「白いところを全部取る」と得意そうに教えたらしい。
年末、二人で大量に仕込んだ。包丁を動かす音が台所で揃い、柚子の汁が指の小さな傷へ沁みる。
余った実は風呂へ浮かべた。食卓では大根を噛み、湯船では皮の残りを香らせる。
冬の家じゅうが柚子になった。
正月が過ぎ、最後の一切れを二人で半分にした。冷たく透き通った大根から、酢より先に柚子の明るい香りが立った。
一颯は職場で作り方を教えるうち、柚子の白い綿を少し残す人もいると知った。試しに二瓶作る。完全に削いだものと、少し残したもの。菜穂子は苦みのあるほうを気に入り、一颯はいつもの味を選んだ。正月の食卓へ二皿を並べ、客にも選んでもらう。どちらも少しずつ減った。風呂には削いだ綿を袋へ入れて浮かべる。食べなかった部分まで湯気に香り、家じゅうの冬が黄色い実を余さず使い切った。
翌朝、二皿の残りは一つの保存容器へまとめられた。苦いものと苦くないものは、もう見分けがつかない。一颯は迷わず箸を入れ、菜穂子は明るい柚子の香りを吸い込んだ。
冷蔵庫を閉めても、指には柚子の油が残った。二人が湯飲みを持つたび、冬の黄色い香りが食卓へ戻った。
窓の外では、細い雪が降り始めていた。