栗鼠の埋めた栗ごはん

 江守遼の姉、芙美は、秋になると栗ごはんを送ってきた。

 遠くへ嫁いだ姉に、遼は父の世話を押しつけられたと思っていた。届く荷物にも礼を言わず、「米ならこっちにもある」と短く返した。

 姉が亡くなったあと、遺品の手帳から毎年の発送日が出てきた。

〈遼は栗を甘く煮た方が好き。父さんは塩味。鍋を二つに分ける〉

 家を離れてからも、姉は二人の好みを別々に覚えていた。

 庭では栗鼠が落ちた実を拾い、石垣の隙間へ運んでいる。埋めた場所を忘れることもあると聞き、遼は、忘れたふりをしていた自分の方がよほど不器用だと思った。

 姉の手帳を開き、栗の鬼皮を剥く。渋皮を傷つけ、いくつも崩した。砂糖で軽く煮た栗と、塩だけの栗を別の器へ置く。

 父は台所の椅子から、黙ってその手つきを見ていた。

 二つの小鍋で米を炊いた。蓋の隙間から湯気が出て、栗と昆布の匂いが部屋へ広がる。

「姉ちゃん、毎年こんな面倒なことしてたんだな」

 遼が言うと、父は「そうだな」とだけ答えた。

 炊き上がった甘い方をひと口食べる。栗はほくりと崩れ、米には淡い蜜が染みていた。姉の味より少し甘い。

 父の塩味の方も一口もらうと、同じ栗なのに輪郭が違った。

「俺、置いていかれたと思ってた」

 遼が呟くと、父は箸を止めずに言った。

「芙美も、置いてきたと思ってたんじゃないか」

 その答えを確かめることはできない。けれど手帳の発送日は、毎年一日も欠けていなかった。

 遼は姉の茶碗にも少し盛り、窓辺へ置いた。栗鼠が庭の端でこちらを見ている。

 食後、残った栗を一つ、土へ埋めた。芽が出るかは分からない。

 台所には炊きたての米と栗の甘い香りが残り、父の茶碗から上がる湯気と、静かに混じり合っていた。

 父は二杯目をよそいながら、「来年も二つ炊くか」と訊いた。遼は頷き、今度は自分が栗を送る相手を考えた。姉の味を閉じ込めるのではなく、好みに合わせて鍋を分ける手間ごと受け継ぎたい。庭では栗鼠が、さっきとは別の場所を掘っていた。