校舎でいちばん高い場所
屋上から撮った町は、どの写真も少し傾いていた。
「性格が出るね」
彼女がカメラの画面をのぞき込んだ。
「水平線がないから」
「言い訳も傾いてる」
僕は写真部だが、人を撮るのが苦手だった。風景なら拒まれない。だから立入禁止の屋上へ忍び込み、校舎でいちばん高い場所から町ばかり撮っていた。
彼女は進路相談をしに来たはずなのに、僕の写真を勝手に採点していた。
「これは七十点。雲は百点、電柱がマイナス三十」
「厳しいな」
「こっちは好き」
選ばれたのは、ピントの外れた一枚だった。フェンスの網が手前にあり、奥で下校する生徒たちが小さく歩いている。
「失敗作」
「閉じ込められてるみたいで、今の私っぽい」
彼女は指定校推薦を受けるよう親に言われていた。将来やりたいことは分からない。ただ、決められた道へ進むのが嫌だという。
「写真の仕事って、どう決めたの」
「決めてない」
「いつも撮ってるじゃん」
「好きなことと仕事は別だろ」
僕も同じだった。写真の専門学校へ行きたいと、まだ誰にも言えていない。写真部員だからこそ、趣味と進路を結びつけるのが怖かった。
風が吹き、彼女の髪がレンズの前へ入った。反射的にシャッターを切る。画面には、顔の半分を髪で隠し、驚いてこちらを見る彼女が写った。
「消して」
「ごめん」
削除ボタンへ指をかけると、彼女が止めた。
「待って。見せて」
写真を拡大した。背景の町は傾き、空は白く飛んでいる。けれど彼女の目だけが、まっすぐこちらを見ていた。
「私、こんな顔するんだ」
「人を撮るの苦手なんだ」
「でも、これは好き」
彼女はカメラを僕へ返した。
「進路、写真にすれば」
「簡単に言うなよ」
「私も簡単に決めない。その代わり、あんたも逃げない」
相談に来た側が、僕の背中を押していた。
僕らはフェンスの前に並び、町を見た。校舎でいちばん高い場所からでも、道の行き先までは見えない。ただ、遠くまで道が続いていることだけは分かった。
「もう一枚撮って」
彼女が言った。
今度は風が止むのを待たなかった。傾きも直さなかった。迷っている顔を、そのまま撮った。
翌日の進路希望調査に、僕は専門学校の名前を書いた。彼女は第一希望の欄を空白で出し、担任に呼び出されたらしい。
放課後、屋上へ来た彼女は笑っていた。
「空白も進路だって言ってきた」
僕はその顔にカメラを向けた。
「何点?」
「まだ現像前」
シャッターの音が、風より先に空へ上がった。