株主番号一番
深町昌代は、息子の一成が勤める会社を自分の家の看板のように語った。
「東雲キャピタルなんて聞いたこともないわ。怜さんの実家は小さな投資屋でしょう? 一成の会社ほど安定していないはずよ」
怜が在宅で仕事をしていると知ると、「無職同然」と決めつけ、家事を押しつけた。
ある日、一成の会社、京浜精機で臨時株主総会が開かれることになった。経営再建のため新しい筆頭株主が入るという。昌代はOB家族枠の見学会に参加し、怜まで連れていった。会社は技術流出か再建かの瀬戸際にあり、一成は連日遅くまで資料を作っていた。怜は何も口出しせず、彼が語る現場の強みだけを丁寧に聞いていた。
「社会というものを見せてあげる。会議中は余計なことを言わないで」
受付で一成の社員証を見せると、係員は怜の顔を確認し、最上位の金色バッジを差し出した。
「東雲家代表者様、議決権席へどうぞ」
昌代は笑った。
「人違いです。この子は嫁ですよ」
会場が開くと、社長以下の役員が怜を迎えに来た。
東雲キャピタルは、世界各国の企業と不動産を保有する巨大ファミリーオフィスだった。表に広告を出さず、経営陣にも家名を明かさないことで知られる。その一族が動けば市場が動くと、金融界では囁かれていた。公表を避けていたため名は知られていないが、運用資産は京浜精機の時価総額の数十倍。怜は創業家の長女で、今回の再建案を承認する一族代表だった。彼女が在宅で読んでいたのは家事雑誌ではなく、京浜精機の特許と雇用を守るための数千ページの調査報告書だった。
一成が母へ言った。
「僕の部署が残れたのは、怜が技術を評価してくれたからだ。口を出さない条件で支援してくれたんだよ」
昌代は急に怜の腕を取り、親しげに笑う。
「それなら家族として、役員の皆さんに一成をよろしくと――」
怜は腕を外し、議長席へ進んだ。
議長が株主名簿を読み上げる。
「株主番号一番、東雲家。保有比率五十一パーセント。代表議決権者、深町怜様」
巨大スクリーンに怜の名が映る。
「本再建案の最終可否は、筆頭株主の一票で決定します」
昌代が『無職同然』と呼んだ嫁が承認端末へ指を置き、会場全体がその判断を待った。