模試一位の母

進学塾の保護者会で、蓮城森麻里奈は息子の成績表を広げた。

「全国模試一位。主人がこの塾の校舎長だから、勉強法は家庭でも徹底しているの」

八重垣谷紬佳の娘は模試を受けていなかった。麻里奈は気の毒そうに言う。

「ご主人、教材会社の営業でしたよね。塾代を抑えたいなら、うちの主人へ相談して。成績別だけど特別枠があるかも」

紬佳は「教育の仕事です」と答えた。

その日、塾グループの新しい学習制度が発表された。麻里奈の夫・堀河森俊明は校舎長として壇上へ立ち、来賓を紹介する。

入場したのは紬佳の夫・八重垣谷理玖臣だった。

「八重垣谷会長、本日はありがとうございます」

理玖臣は、全国五百校の塾と教材会社を運営する教育グループの創業者兼会長だった。教室で使う問題も自ら作る数学者で、営業先へ行くのは現場の教師と生徒から教材の難易度を聞くためだった。

麻里奈は成績表を裏返した。

「校舎長って、会長と直接話す立場よね?」

俊明が苦い顔をする。

「校舎長は五百人近くいる。会長はグループ全体の責任者だ」

新制度では、一回の順位より理解度の変化を重視し、家庭の所得にかかわらず受講できる奨学枠を増やす。

そこで本部担当者が、麻里奈の息子の全国一位について確認を求めた。成績表の模試名は全国模試ではなく、俊明の校舎だけで行った確認テスト。受験者は十二人で、一位は三人同点だった。

息子は、母がSNS用に〈全国〉と書き足したと認めた。

麻里奈は話題を変え、紬佳の娘の成績を尋ねた。

理玖臣は娘の結果を公表しなかった。だが司会者が、国際数学大会の代表選手として名前を読み上げた。娘は塾名も父の名も伏せ、自分で予選を通過していた。

麻里奈が顔面蒼白になる。

「どうして全国模試を受けさせないの?」

紬佳は答えた。

「一つの順位で、勉強する理由を決めたくなかったので」

俊明は妻から成績表を受け取り、虚偽の投稿を削除させた。

理玖臣が奨学制度の承認印を押し、十二人中の一位という紙の隣へ国際大会代表証が置かれた瞬間、夫と子どもの順位を全国一だと掲げた麻里奈だけが、自分で広げた成績表の小ささを知った。