欠席札を燃やす湯
谷間の学校では、冬になると欠席札が壁を埋めた。
子どもたちは怠けているのではない。家に湯を沸かす薪がなく、身体についた虱や湿疹をからかわれるのが怖くて来られなかった。
教師イリスは、校舎裏の使われない染物小屋を共同浴場に変えようとした。だが「子どものため」と言えば、子のいない家から反対が出る。
そこで彼女は用途を限定しなかった。平日の朝は児童と付き添い、夕方は全住民、休日は旅人も利用できる。
負担は収穫袋五十袋につき一袋。四十九袋以下の小農、土地を持たない職人は現物税なし。その代わり、希望者は湯番一回、薪割り二刻、布洗い十枚のどれかで年間札を得る。子どもの利用は全員無料。収穫量は納屋の印ではなく、共同秤で本人立ち会いのもと測る。
大地主が言った。
「私の麦で、他人の子を洗うのか」
イリスは空席だらけの教室を示した。
「来年あなたの畑で働き、帳簿を読み、病気を見つける子たちです。ですが寄付ではありません。夕方にはあなたも同じ湯を使えます」
一袋の行き先は、半分を売って薪、四分の一を石鹸、残りを非常食。内訳は校門の板に毎月書く。余れば翌年の徴収袋数を減らす。
最初に麦を運んだのは大地主だった。続いて、免除された炭焼きが煙突を組み、仕立屋が小さな浴衣を縫った。誰も哀れみで動いたのではない。自分の出した一袋や一刻が、何人分の湯になったか見えたからだ。
開業翌朝、これまで休んでいた少年が濡れた髪で教室へ入った。隣の子は鼻をつままず、席を半分空けた。
イリスは壁の欠席札を一枚外し、浴場の炉へ入れた。
校門の収支板には、無料で入った子どもの人数も隠さず書かれたが、名前はなかった。大地主は数字を数え、麦一袋で二十六人が三回ずつ洗えたと知った。翌月、彼は納税分とは別に古い長椅子を運び、『待つ親も冷える』とだけ言った。炭焼きはその椅子の下へ暖気を通した。子のいる家といない家の境目に、誰でも座れる席ができた。
紙は赤く燃え、校舎裏の煙突から、代わりに白い湯気が昇った。