段ボールの底を押す
返品センターでは、一時間に処理した箱の数が名前の横へ表示される。
迫田透花は、その数字を上げるのが得意だった。上野原凛香は、箱の中身を確かめず速さだけ競うのは危ないと言う。透花は慎重さを遅さと呼び、凛香は速さを借金と呼んだ。
夕方、ベルトに大型の段ボールが流れてきた。家具部品と書かれているが、底が湿って膨らんでいる。重量表示は十二キロ。透花はそのまま持ち上げた。
底が抜け、金属の脚が一本落ちた。透花は反射的に箱を抱え込み、腰をひねった。凛香が駆け寄る。
「置いて」
「止めたら数字が落ちる」
「腰が落ちるよりいい」
「あと一箱」
後ろから次の箱が迫る。透花は片手で底を押さえたまま、前へ運ぼうとした。凛香は停止ボタンへ手を伸ばす。透花は止めないで、と言いかけた。
金属脚がもう一本、隙間から滑った。
透花は反対側の停止ボタンを押した。凛香の掌も同時に赤い面へ触れた。ベルトの数字が止まり、二人の処理件数も止まった。
凛香は補強板を箱の下へ差し、透花は痛む腰ではなく膝を曲げた。二人で左右の持ち手を作り、再梱包台まで運ぶ。凛香は内容物を数え、透花は重量を量り直した。実際は二十八キロあった。
班長は「次から気をつけて」で済ませようとした。透花は返品ラベルへ《重量表示相違》と入力し、凛香は《底面破損》を追加した。作業中断の理由欄には、二人の社員番号を並べた。
再梱包した箱には、透花が大きな重量札を貼り、凛香が底板の型番を書いた。二人はベルト再開前に、同じ大きさの箱を三つ抜き取って確かめた。件数表示はさらに下がったが、後ろの作業者が持ち上げる前に重さが分かるようになった。止めた時間を、次の人の安全へ変えるためだった。
帰り、更衣室で凛香は湿布を差し出した。透花は受け取ったが、「明日は抜かす」と言った。凛香は「明日も止める」と返した。
翌朝、表示板の数字はまたゼロから始まった。二人は最初の大箱へ同時に手を添え、底を押してから持ち上げた。