氷魔導師が開けた湯の道
触れるものを凍らせてしまう魔導師ユーディは、王都で「冬を呼ぶ災厄」と恐れられていた。
追放先は雪山の土地。皮肉なことに、地図には温泉の印がある。
着いてみれば源泉は雪崩の氷に塞がれ、湯気だけが細い隙間から漏れていた。小屋へ湯を引く石溝も、青い氷の下だ。
ユーディは手袋を外した。
彼の魔法は火を消し、水を凍らせる。だが氷を作れる者は、氷がどこで割れるかも分かる。
今日は一本の道だけ開ける。
戦時中、ユーディは敵軍だけでなく、その下流の村ごと河を凍らせるよう命じられた。勝利の歓声の裏で、水を失った畑が白く枯れた光景を忘れられない。大きな力を大きく使うことが偉いのではない。必要な幅だけ選び、残りを傷つけないことのほうが難しい。今度は湯を奪わず、通すために凍らせる。
氷塊へ指を置き、《氷脈》を読む。中心を凍らせれば外側へ圧力が逃げ、狙った線に亀裂が走る。力を絞り、髪の毛ほど細い冷気を通した。
ぴしり。
白い線が石溝に沿って伸びる。ユーディが木槌で一度叩くと、氷は左右へきれいに割れた。
閉じ込められていた温泉が、一気に溝を走る。割れた氷の縁が透き通り、湯に触れたところから丸く溶けていく。破壊した跡ではなく、道を譲った形が残った。
雪の中に白い湯気の道が生まれた。熱い流れと冷気がぶつかり、細かな霧が夕日に虹を作る。
ユーディは小屋前の浴槽へ手を入れた。凍らない。むしろ指先から腕へ、じんじんと熱が上がる。
鍋では根菜と塩漬け肉の煮込みが温まっていた。蓋を開ければ、湯気と一緒に胡椒の香りが広がる。
王立魔法院から青い火の手紙が届いた。
『敵軍の河を凍結せよ。帰還すれば罪を赦す』
ユーディは火を消さず、手紙を雪の上へ置いた。開封の呪文も唱えない。
「赦されなくていい。ここでは、解かすために力を使える」
彼は煮込みを椀へよそい、湯の道を眺めながら匙を取った。
凍らせた一筋が、温かな流れを取り戻した。その逆転だけで、今日一日は十分だった。