河豚の骨ぎわ
藤代壮一は、チームのグループチャットを開けずにいた。
大学から続けた社会人ラグビーで、首を傷めた。医師の答えは明確だった。
――接触競技への復帰は勧められない。
二十七歳。仕事はある。歩けるし、走ることもできる。それでも、土曜の午後が突然なくなる未来を、壮一はまだ誰にも説明できなかった。監督には「検査待ち」とだけ伝え、練習連絡を未読のままにしていた。
寒い夜、壮一は一人で居酒屋へ入った。冬の短冊に「河豚の唐揚げ」とある。
油へ骨付きの身が落ち、ばちばちと力強く鳴った。衣から立つ香ばしい匂いに、青柚子の皮と白胡椒の刺激が重なる。皿の河豚は淡い金色で、指で持つにはまだ熱かった。
壮一は大きな一切れへかぶりついた。外は乾いて軽く、中の身は弾力がある。骨の近くほど味が濃いが、歯を立てる角度を間違えると硬い骨に当たった。
「そこ、ゆっくりです」
店主が言った。
壮一は速度を落とし、骨の形に沿って身を外した。全部を勢いで噛み砕く必要はなかった。
選手として戻れないなら、チームから消えるしかないと思っていた。練習場へ行けば、元気な身体を見るのがつらい。けれど、試合映像を分析することならできる。新人のタックルを外から見ることもできる。続けたいのか、未練を延ばしたいだけなのかは、まだ分からない。
壮一はチャットを開き、診断書の写真を添えた。
〈接触プレーには戻れないと言われた。黙っていてすまない。次の練習に行って、直接話したい。必要なら映像係をやらせてほしい〉
送信すると、胸の奥に空いた場所はそのままだった。スタンプが一つ、二つとつき始める。
監督からは『明日電話する』と返った。壮一は怖くなったが、通知を消さなかった。練習場へ持っていくノートに、選手としてではなく外から気づいたことを書く欄を作った。
最後の河豚へ青柚子を絞った。酸っぱい香りが一瞬強く立ち、熱い身の味を引き締めた。骨にはまだ少し肉が残っていたが、壮一は皿へ戻さず、冷めるまでゆっくり指で持っていた。