海門鎖の最終操作
暴風警報が鳴る港で、漁船七隻が沖から帰ってきた。
だがオスヴァン・レード侯爵は海門の鎖を上げたまま、入港を止めていた。
「一隻につき金貨一枚。払わぬ船は外で朝まで待て」
波は防波堤を越え、甲板には子どもも見える。港守ケイラム・ノッサが鎖を下ろそうとすると、侯爵の私兵が剣を抜いた。
「海門は王国の救難設備です。嵐の最中に通行料を取ることはできません」
「港も海も私の領地だ。沈めば、新しい船を買えばよい」
オスヴァンは料金箱を鎖台へ置き、先に帰った一隻から奪った金貨を見せつけた。
ケイラムは操作石を指した。
「領主判断で閉鎖を続けるなら、最終操作者として手を置いてください」
「臆病者め」
侯爵は石へ掌を押し、〈料金未納船の入港を禁ずる。救難規程より領主収入を優先〉と声に出した。操作石は赤く光り、彼の紋を受け付ける。
次の瞬間、その声が港塔の拡声鐘から繰り返された。
海門石は事故調査のため、最終操作者の命令を自動録音する。暴風警報中は同じ記録が王立海軍の救難局へ送られる。オスヴァンは権限を示すため自分で認証し、閉鎖命令の証拠を完成させた。
沖から白い火矢が上がった。王立救難艇が漁船を率いて現れ、海軍士官が遠隔鍵で鎖を一気に下ろす。七隻は次々に安全な内港へ滑り込んだ。
「軍が私の港へ勝手に入るな!」
侯爵が叫ぶ間にも、料金箱の金貨が操作台の秤で数えられた。すべて嵐の警報後に徴収された時刻印を持つ。さらに港務帳には、過去の荒天でも同じ料金が〈侯爵家特別収入〉として記帳され、毎回オスヴァンが承認していた。
ケイラムは最後の船から降りた少女へ毛布を渡した。少女は濡れた指で、彼へ小さく敬礼した。港塔ではまだ、〈沈めば新しい船を買えばよい〉という声が鳴っている。船長たちは料金箱を指さし、誰も侯爵へ礼をしなかった。
海軍士官が濡れた令状を開いた。
「オスヴァン・レード。救難妨害、緊急時の違法徴収および船員生命への危険行為により、王立海軍法廷は貴殿の逮捕を命じる」