火葬場からの通知

瀬名原透花は、叔父・兼定を自宅で看取った。独身の叔父に子はなく、透花は食事を刻み、床ずれを洗い、夜中の呼吸音で目を覚ます生活を五年続けた。

兼定の甥・央士と姪・奈々美は、介護を頼むと「施設へ入れればいい」と電話を切った。ところが葬儀の日、二人は火葬場へ向かう車列から途中で消えた。

棺が炉へ入った直後、透花の携帯に自宅の防犯システムから通知が届いた。

《金庫開放。書斎で紙片破損を検知》

映像には、央士が叔父の机をこじ開け、奈々美が封筒を読んでいる姿が映っていた。

「全財産を透花に、だって。こんなのなくせば分からない」

奈々美は紙を細かく裂き、央士は金庫の現金と権利証を鞄へ入れた。二人はカメラに気づかず、「介護女には香典だけ渡せばいい」と笑っている。

透花は火葬場を離れなかった。警備会社と遺言執行者へ映像を転送し、叔父の骨上げを最後まで済ませた。

三日後の親族会議で、央士は堂々と宣言した。

「遺言はなかった。叔父の兄弟の子で均等に分ける」

奈々美も、透花が家へ入り込んで財産を隠したと責めた。

遺言執行者は法務局の封筒を開いた。兼定は自筆証書遺言書保管制度を利用しており、原本は法務局に保管されていた。書斎で破られたのは、内容を親族に知らせるための写しだった。原本には、自宅、預金、貸家を透花へ遺贈すること、介護を拒んだ親族には生前贈与以外を残さないことが記されている。

央士は映像を合成だと言い張った。

警備会社の担当者が、金庫の開閉履歴、玄関の顔認証記録、持ち出された権利証の位置情報を示す。二人が売却相談へ行った不動産会社からも、書類が回収されていた。

遺言執行者は静かに言った。

「遺言を隠し、破棄して利益を得ようとした行為は、相続欠格の判断材料になります。窃盗と器物損壊についても被害届を提出しました」

奈々美が透花を見る。

「家族を警察に売るの?」

透花は叔父の骨壺を抱え直した。

「火葬場に叔父を置いて、財産を盗みに戻った人たちから、その言葉を聞くとは思いませんでした」

会議室の扉が開き、警察官が防犯映像の時刻を読み上げた。

「お二人が相続を始めたと思った午後一時十二分、相続人でなくなる証拠も同時に記録されていました」