煙のあとで笑う人
祖母の遺影は、誰が選んだのか、ひどく真面目な顔をしていた。
実際の祖母はよく笑い、笑うたび入れ歯が少し浮いた。
家族はもっと祖母らしい写真を探したが、どれも目を閉じているか、食べ物を口に入れていた。
一周忌の夜、孫が線香を替え忘れた。
最後の煙が消えると、遺影の祖母が言った。
「その写真、嫌い」
祖母は、線香の煙が完全に消えたときだけ話した。
「じゃあ、どの写真がいいの」
「台所の引き出し」
探すと、古い写真が一枚あった。
祖母が鍋を焦がし、黒い煙の中で大笑いしている。
隣には、家族に反対されながら連れて帰った野良猫がいた。
孫の家でも、今、問題になっている猫がいた。
娘が拾ってきたが、賃貸では飼えない。
孫は里親を探すよう言い、娘は祖母なら許したと泣いた。
「ばあちゃんは何でも許したよね」
孫が遺影へ言うと、祖母は鼻を鳴らした。
「許したんじゃない。後始末したの」
「同じでしょ」
「違う。拾った人にも働かせた」
祖母は猫を飼う代わりに、幼い孫へ餌やりと掃除を任せた。
忘れれば猫は祖母の布団へ入り、孫が叱られた。
温かい思い出の裏に、面倒な毎日があった。
「娘に何て言えばいい?」
「私に決めさせるの?」
「死んだ人は責任取らなくていいから」
「生きてる人が取るんだよ」
煙が消え、祖母はまた真面目な顔になった。
孫は娘と一緒に、ペット可の住まいを探した。
すぐには移れないので、知人の家へ猫を預け、娘は毎日世話へ通った。
半年後、家賃の少し高い部屋へ引っ越した。
娘は小遣いの一部を餌代に出す約束を守った。
遺影は、鍋を焦がした写真へ替えた。
親族から「仏壇にふさわしくない」と言われたが、孫は変えなかった。
線香の煙が消えるたび、祖母は写真の中で笑った。
時々、
「掃除、さぼってる」
と余計なことも言った。
猫は仏壇の前が好きだった。
祖母の写真を見上げ、煙が消える直前に尻尾を一度振る。
祖母が話すときだけ聞こえているようだった。
家族の温かさは、何でも許すことではない。
一緒に面倒を引き受け、その失敗を後で笑える写真へ変えていくことだった。