父を招待しない理由

璃津は結婚式の招待状を二つの封筒に分けていた。母の家へ一通、父の家へ一通。離婚して十年、両親は互いの名前を娘への伝言としてしか口にしない。

家族グループに母からメッセージが来る。

母 式の連絡が面倒だから、お父さんもこのグループに入れたら?

母 一日くらい家族に戻れるでしょう

すぐに電話も鳴った。

「席も同じでいいわよ。あなたのためなら我慢するから」

「同じにしない」

「せっかくの結婚式なのに」

璃津は封筒の中へ、それぞれ違う集合時刻を書いた案内を入れた。母は午前十時、父は十時半。控室も別にする。

「二人が仲直りする式じゃないから」

「そんな冷たいこと言わないで。家族写真くらい」

「撮るなら、私が入れたい人を一人ずつ呼ぶ。無理に隣には並べない」

子どものころの家族写真では、璃津はいつも両親の間に立たされた。母の肩と父の腕が離れないよう、細い体で隙間を埋めた。笑えと言われるたび、自分がほどけたら家族も崩れると思った。

母は「あなたが歩み寄らせてくれない」と言った。

「私を橋にしないで」

璃津は家族グループの参加者欄を開いた。父を追加するボタンには触れない。代わりに、父には個別で式の連絡を送り、母にはこのグループを式の連絡用に使わないと告げた。

璃津 式については私から各自へ連絡します

璃津 このグループに父は招待しません

璃津 当日の伝言も引き受けません

母の既読がつく。入力中の表示は出たが、送られたのは「わかりました」でも怒りでもなく、封筒の宛名を確認する質問だった。

璃津は必要なことだけ答え、通話を終えた。

二つの封筒は同じ大きさで、同じ重さだった。重ねれば一つに見えるが、糊づけする口は別々にある。璃津は座席表の両端に、それぞれの名前を置いた。間を埋める席を自分のために用意する必要はない。中央には、これから暮らす相手の席だけがあった。

璃津は二通を並べて封をした。封を押さえる指は、もう震えなかった。家族を一つに戻さなくても、自分の式へ招くことはできる。